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ミステリ感想-『グラスホッパー』伊坂幸太郎

2015年12月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
殺された妻の復讐のため悪徳会社に入った鈴木。
面と向かった相手を自殺に追い込む特殊能力を持つ自殺屋・鯨。
子供も女も依頼されれば構わず殺す蝉。
車道や線路に標的を押して殺す「押し屋」をめぐり3人の運命が交錯する。

2004年このミス8位、直木賞候補


~感想~
「陽気なギャングが地球を回す」や「重力ピエロ」を経て「死神の精度」や「魔王」にいたる過渡期に書かれ、鈴木と鯨に共通する亡霊の囁きや、意味がわかると怖いコピペみたいなラストシーンなど考察しがいのある要素が多々あるが、まあそれは好事家に任せるとして、ミステリ味はほとんどない文学作品で、冒頭からしてキャッチセールスで麻薬を売りさばきヤク漬けで監禁した女に子供を産ませて臓器売買という時はまさに世紀末な悪徳会社の社長の息子に妻を殺されたがパパが偉いから無罪放免、という中学生が考えたのかな?と思うくらい厨二な設定の中を厨二キャラたちが、警察機構が存在しないのかな?と思うくらいの犯罪天国を闊歩するいろいろと無茶な内容ながら、ミステリ馬鹿にも単純に面白く読めた。

もうあまりに現実離れしていてリアリティのかけらも無い世界だからこそ成立しうる、偶然ばかりに支配された都合の良すぎる展開の中、じゃかすか人が死んでいるのにやたらとほのぼのしたキャラたちが軽妙なトークを繰り広げ、作者らしい伏線回収で盛り上げるという、数作しか読んでいないが実に伊坂幸太郎らしいと言いたくなる作品で、頭から受け付けない読者もいるだろうが、波長が合えば一気読み必至の佳作であろう。


15.12.10
評価:★★★☆ 7
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