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ミステリ感想-『ミステリー・アリーナ』深水黎一郎

2015年12月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
近未来、紅白に代わり大晦日を彩る推理番組「ミステリー・アリーナ」。
大雨で橋が流れ孤立した屋敷で起こる殺人事件の謎。
ミステリオタクたちがキャリーオーバーで貯まった賞金20億に挑む。


~感想~
全力の悪ふざけを見た。
いわゆる多重推理・多重解決物の極北と呼ぶべき内容で、早押し形式の犯人当てミステリ推理番組と、問題文となる物語が交互に進行していく構成がまず珍しい。
多重推理物の弱点というか必然として、先に出された推理は間違いであり、後から出された推理に駆逐される運命にあるが、テレビ番組という形式をとったことで、基本的に最後の最後まで正解か否かはわからないのが巧い。
また提出される推理も与えられたテキストの一面をただ取り上げただけの捨てトリックから、一面だけを曲解してこしらえたバカトリック、回答者がミステリオタク揃いという特性を活かし、ミステリというある程度の様式、お約束が存在する特色を逆手に取り、先の先まで展開を読んだメタ推理などなど多岐にわたり、しかもそれぞれが一定以上の説得力を持っているため飽きさせない。

正直言って終盤の展開や大仕掛けは3分の1ほど読んだところでわかってしまったものの、ある真相が明かされてからは結末まで怒涛の勢いで雪崩れ込み、万が一他の誰かが思いついても書き上げないような、考えるだに苦笑するしかない偏執的なトリックには素直に脱帽した。
これは最高の褒め言葉のつもりなのだが、全力の悪ふざけとでも冠したくなる悪仕掛けで、多重推理ジャンルの極北にして一つの到達点であることは間違いなく、ある意味で今後これを越える多重推理ミステリはまず生まれないだろう。
それにしても(ネタバレ→)字面だけ見れば本当の多重「解決」物はこうでなくてはいけないのだが、よくぞこれを考えつきそして実行したものである。


15.12.24
評価:★★★★★ 10
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