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ミステリ感想-『オルゴーリェンヌ』北山猛邦

2015年12月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
書物の駆逐された世界でミステリを求める少年クリス。
ひょんなことから知り合った口の利けない少女ユユを守り、少年検閲官エノとともにオルゴール職人たちが暮らす島へ向かう。
少女をオルゴールにした男の伝承が残る島で、奇怪な連続殺人の幕が開く。

~感想~
冒頭の少女をオルゴールに作り変える男の伝承、ボーイミーツガールから荒海に閉じ込められた孤島へ、怪しげな島の住人に連続殺人と、This is a 本格ミステリな舞台設定から、予想の上を行く展開を最後まで見せ続けた傑作。
しかし魅力のほとんどがネタバレにつながり伏せ字無しでは多くは語れないため、早速↓ネタバレ注意↓

キャラ立ち過ぎの新たな少年検閲官カルテの解決、屋敷の主人クラウリの告白、探偵役エノの推理といわゆる多重推理がなされるが、先に出された2つの推理が単なるハズレではなく、いずれも存在意義があるというのがまず秀逸。
カルテの解決は事件の真相として表に出され、これが無ければクリスもエノもユユも処罰は免れ得ない。
クラウリの告白はそれ自体がユユへの心理的圧力、束縛として機能し真相であるか否かは全く関係ない。
そしてエノの推理は、前2つの推理を上回り、完全に予想外のところから真相を導き出すもので(ただし憶測に過ぎず証拠は全くなく、カルテの解決を覆せないというのも実に秀逸)物語の、ミステリの結末として完璧な着地。
多重推理が真相の補強や意外性を演出するのははもちろんのこと、物語にも深みを与えるという素晴らしい作例である。

また真相そのものも犯人は島外におり、しかもクリスらが島に着いた時点で全てが終わっていたという遠隔殺人トリックの代表的作品として今後真っ先に挙げられるべきものだが、惜しむらくはそれを口外した時点で壮絶なネタバレになってしまうというジレンマがもどかしい。

ラノベ設定のおかげで中世と現代のいいとこ取りのような奇抜な舞台や独特の世界観、思惑通りに嵌まりまくる刻命館的トリック、タイミングの良すぎるビルの崩壊とキリイの死などなども特段不自然ではなくなったのも良い所。前作に続き氷のガジェットが少しも使われなかったのはどうかと思うが、そんな無粋なツッコミは重箱の隅をつつくような行為だろう。


もしラノベ題材ならば容易にシリーズ化できていたであろう設定ながら、作者はこれだけのトリックと物語を盛り込むまで満を持して第二作を出さなかった。
その選択は大正解だし、待たせただけはある今年度を代表する傑作である。


15.12.14
評価:★★★★☆ 9
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