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ミステリ感想-『アンデッドガール・マーダーファルス 1』青崎有吾

2016年04月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
異形の者が駆逐されていく中、人類との共存を唱えた吸血鬼。
しかし彼の妻が何者かによって無惨に殺された。
偏見にさらされ警察もろくに捜査をせず、やむなく依頼した日本人探偵は「鳥籠使い」と呼ばれる奇妙な者達だった。


~感想~
吸血鬼や人魚や鬼が普通に存在する、19世紀後半のヨーロッパが舞台の異形の本格。
キャラ立ちし過ぎている探偵サイド三人組の魅力もさることながら、1話目の「吸血鬼」は基本中の基本的なトリックを吸血鬼殺しという特殊設定に上手く落とし込み、ロジックも明快で基本技なのにギリギリ気づけない、しかしあと一歩推理を進めていれば気づけたはず、という絶妙な線を突くことに成功している。

本領発揮は2話目の「人造人間」から。こちらもトリックは基本技の応用で、密室条件を限定しすぎた結果、答えは見え見えになってしまったが、足跡一つから状況を読み、簡潔な論理展開で真相を突き止める推理手法が楽しい。
だがそんなことより何より、1話目から匂わせていたある舞台設定が明らかとなり、ある人物が登場するや読者はこの物語の真の魅力に気づくだろう。
ネタバレになるのでいちおうぼかしながら、しかしこの作品の最大の魅力なのでやむなく多少ネタバレしつつ書かせてもらうが、この世界に普通に存在するのは何も怪物だけではないのだ。
エピローグで敵サイドの正体が明かされ、このシリーズが「本格ミステリ・スマッシュブラザーズ」あるいは「19世紀ミステリ&オカルトドリームトーナメント編」もしくは「古典ミステリ・アベンジャーズ」だと知り、もう興奮を抑え切れない。
ということは夏刊行の次作で登場が予告されている名探偵と怪盗は絶対あいつらじゃないか! 誰かがやりそうで誰もやらなかったことをついに始めてしまった。ずるいぞ青崎有吾!

出版前からアニメ化が決定しているのもうなずける、今最も次作が待ち遠しい、もしかしたらミステリの歴史に名を刻むかもしれないシリーズの開幕である。


16.4.3
評価:★★★★ 8
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