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ミステリ感想-『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』井上真偽

2016年07月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
聖女伝説の残る地方で婚礼中に起きた毒殺事件。
同じ盃を回し飲みした8人のうち3人(+犬1匹)だけが死亡するという不可解な状況。
参列した元中国マフィアのフーリンと少年探偵・八ツ星、そして奇蹟の実在を求める青髪の探偵・上苙が推理に挑む。


~感想~
奇蹟を証明するため、考えられる全ての可能性を排除する探偵……という無茶な設定で多重解決ジャンルに新たな地平を切り拓いた前作にまさかの続編が登場。
出落ちのような設定に厨二病すぎるキャラ、設定そのものを逆手に取った逆トリックと、前作でやるべきことを大体やってしまい、同年には深水黎一郎が多重解決ジャンルの極北とも言うべき「ミステリー・アリーナ」を刊行と、読者からすれば「はたして前作を越えられるのか?」という疑問がまず湧くところだが、心配は無用。確実に前作を上回る出来栄えである。

問題編は前作よりも長いものの、前座を務める少年探偵の推理パートとともに終わり、本命の青髪の探偵が登場してからは、些細な伏線をもとに鎧袖一触で誤った推理を叩き潰すやりすぎな展開は健在。
加えて問題編の終了と同時に開示される「ある真相」が絶妙で、これに青髪の探偵がどう立ち向かうかも(まあ話の展開は見え見えなのだが)面白い。
そして前作の感想で「もっと上を目指せただろうにと思えてならずやや残念」と記した結末は、まさにその目指すべき上の地点に手が届いたもので、意外性と納得感を兼ね備えている。

次回はさらに上を期待できそうなこのシリーズ、今度は青髪の探偵が徹頭徹尾、鎧袖一触し続けてもいいんですよ?


16.7.15
評価:★★★★ 8
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