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ミステリ感想-『異次元の館の殺人』芦辺拓

2016年10月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
菊園綾子検事は罪に陥れられ服役中の恩師を救うため、森江春策に勧められた最新の粒子加速器・霹靂Ⅹ(ヘキレキテン)による証拠の分析を依頼。
だが霹靂Ⅹは暴走し、近くに滞在していた菊園は平行世界へと飛ばされる。
そこは発生した密室殺人事件を解かない限り、元の世界に戻れない異次元の館とでも言うべき場所だった。

2014年このミス10位、本ミス4位


~感想~
本作の特色にして一番の魅力のためあらすじをネタバレするが、菊園検事が密室殺人事件に対し誤った推理を披露すると、時間がさかのぼって推理前に戻り、そこは関連人物たちが微妙に異なる名前・容貌に変化し、しかも誤った推理で用いた手掛かりが消失した平行世界になっている、というトンデモなSF設定である。
平行世界に飛ばされるたびに推理をやり直し、手掛かりはそのたびに消失してどんどん密室は堅牢になっていき、最後の最後には……と考えるだに頭の痛くなるような設定で、器用な作者をしても大変な苦労を強いられたとあとがきで述懐している。

この設定を考え、そして実行した時点でもはや一定の評価を得ることは確実なわけで、実際に各種ランキングで上位を賑わせたが、ぶっちゃけると面白かったのは設定だけで、トリックはほとんどが箸にも棒にも掛からない、ただ密室を作り上げただけの代物に過ぎず、最終的な解決もその延長線上にあるだけの話である。
とはいえ多重解決物……にジャンル分けしてもいいと思うが、2015年に話題を呼んだ深水黎一郎「ミステリー・アリーナ」に勝るとも劣らない、多重解決ジャンルの一つの頂点を極めた作品であることは間違いなく、その多大なる労力と卓越したアイデアには称賛を与えられて当然であり、本格ミステリファンならば一読の価値あることは保証する。


16.10.1
評価:★★★ 6
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