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ミステリ感想-『究極の純愛小説を、君に』浦賀和宏

2020年03月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
文芸部員の八木剛は密かに思いを寄せる草野美優とともに富士樹海で行われる合宿に参加。
ところが部員たちは次々と正体不明の殺人鬼に殺されていく。
一方、保険調査員の春菜琴美は、失踪した八木剛を追ううちにある事実にたどり着く。


~感想~
追悼、浦賀和宏。
浦賀は年齢が近く、19歳のデビュー当時から推していたため、俺達の同級生がバカやってら、くらいの親しい感覚を勝手に持っていた。それがこんなにも早く亡くなってしまうとは実に惜しまれる。

本作は現実をも巻き込んだメタフィクションが、作者が本当に亡くなってしまった結果、当初は予期していなかったはずの広がりを見せた、ある意味で未曾有の作品である。
作中に作者自身が登場し、しかも現実を少しなぞる。それ自体は珍しくないが、急逝したことにより作者の本名が作中の主人公と同じ八木剛だと公開されており、それを知っていると私小説の雰囲気が漂い始める。
そしてネタバレを避けるため多くは言えないが、終盤の展開から結末に掛けて、作者が亡くなったために、物語が現実と虚構の間で奇妙なリンクを見せてしまう。
大げさに言えば本作はまるで作者が死去したことで、初めて完成する、作者自らものした追悼小説のような側面を帯びているのだ。

浦賀がどこまで意図していたかはわからないが、作者が本当に亡くなったことで全く別の作品に見えてしまうという仕掛けは、過去に例のないものではなかろうか。
だからといってこのトリックがすごい!と言うには、マジで亡くなってたらそんなはしゃぎ方はできないわけで…。
この読後感、あんまりそういう感情を抱いたことはないけどこれは「切ない」って言葉が似合う。ワンダと巨像より最後の一撃が切ないよ。マジで死んじゃったら全然話が違っちゃうじゃないかよ。これじゃあ物語がトゥルーエンドになるじゃないか。

なにぶん9作続いた松浦純菜シリーズの結末のネタバレをかまし、ある意味で外伝でもある作品なので、人には勧めづらいが、シリーズ9作を完走したならばよほどのファンであるだろうから必ず読んで欲しい、浦賀和宏という稀有の作家を偲ぶ作品である。


20.3.24
評価:★★★ 6
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