私は日本の天皇制度の擁護者ではない。先の戦争の責任を天皇に負わせなかったことが、今日の日本の戦後処理の混乱の原因と思っている。天皇制は現行憲法の象徴であれば、皇族の存続は認めてもいいかとも考えている。
日本には天皇を敬う思想という重いものではなく、風習程度のものは拭えず存在している。天皇を非難していた母も、地域のサークルを訪れた美智子妃に声を掛けられ感動していた。
天皇皇后両陛下が公務で熊本を訪れ、国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」を訪問し入所者と懇談した。これで天皇皇后は、全国に14ある国立療養所のうち11か所目を訪問したことになる。入所者が高齢者が多いこともあって、多くの方が「心が洗われる思いがした」との言葉で表現している。こうした形で天皇制が残っていくなら、それは受け入れなければならないだろう。
ハンセン病は、社会的に迫害としか言いようのな非人道的な扱いを受けてきたが、厚生官僚と医師会などの権威主義的で非科学的な対応が根底にある。松本清張の「砂の器」の、どんでん返しにも使われた”癩(らい)病”である。
癩病は顔や手足に結節ができるため、忌み嫌われた歴史が背景にある。結核菌の仲間で、感染しても発病まで時間がかかり、研究に時間がかかった。しかし、少なくとも戦後には、病原菌の特定も治療法も感染方法も究明されていた。
国はこれを認めず、延々と患者を隔離し、男は断種し女性は避妊手術を行っていた。社会からの隔離は徹底し、戸籍を改ざんし氏名や過去を抹殺させられ、死後は解剖されることになっていた。患者は人間としての基本的権利をも奪われて、収容所から出されることはなかった。
そうした不条理な国の対応の犠牲になった方々に、やさしく声かける天皇皇后の存在は、少しでも慰みにはなるであろう。こうした皇室の在り方は、権力とは無関係な存在である。
自民党の憲法草案は、天皇を国家元首にすることを規定している。あらゆる法律や権力の行使に天皇の許認可を求めている。天皇に絶大な権限を与える自民党憲法草案は、天皇の存在を権力構造の頂点に据えるのである。極めて怖ろしい天皇制を、自民党は懐に抱えているのである。