「街路にて」。短い詩だが、魅力的な行に満ちている。すべてが緊密な関係にあり、この一行を選ぶのがむずかしいのだが。
その子は漂って行く、街路を、あてどなく、
全体のなかでは印象が薄い行かもしれない。
「漂っていく」と「あてどなく」はつきすぎているというか、同じことを別のことばで言い直しているだけだ、と批判的なことばを書こうとして、私の意識はふと立ち止まる。「違う」と、私のなかのだれかが告げる。もう一度、読み直す。
すると。
その子
が、くっきりと見えてくる。この詩の主役。「彼」でも「青年」でもなく、「その子」。「あの子」でも、「この子」でもない。「その」という中途半端な位置にいる。しかし、「その」ということばを思わずつけてしまう、引きつける力がある。
カヴァフィスは、「その子」を直接知らないかもしれない。しかし、その姿を見ればすべてがわかる。「その」のなかにカヴァフィスの知っている体験がある。「間接的な共感」を「その子」の「その」は持っている。そして「その子」の「子」という呼び方のなかには、さらに深い共振力がある。
「その子」ということばを中心に、すべてがシンクロしている。
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