詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

青柳俊哉「余韻」ほか

2023-08-06 15:16:07 | 現代詩講座

青柳俊哉「余韻」ほか(朝日カルチャーセンター、2023年07月17日)

 受講生の作品。

余韻  青柳俊哉

冬の木から 水鳥がはばたく
月に鷺が響く 水のような
夜明け 空の端から端へ伸びる
雲の暗い紫 言葉が瞬時にめざめる 
枯野の草は柔らかく 葉音は
一面に潮を引いて空へむかう 

水鳥の中へ 太陽は落ちていった 
空と海は 葉の潮に溺れる

光は光を演じ 水は水を演じる 
人は言葉を 鳥は水の音を 
光と水の余韻が
刻印する鏡 

 冬の情景が端的に描かれている。「一面に潮を引いて空へむかう」には飛躍があって楽しい。光と面を感じる。宇宙の静けさを感じる。「光と水の余韻が」という行には、対象に余韻ということばが集中している。「光は光を演じ 水は水を演じる」という一行、自然からことばがやってくるという感じに満ちている。「光と水の余韻が」には、そのもののもつ力を感じる、というような声。
 青柳は、書きたかったのは最後の二行と「光は光を演じ 水は水を演じる」という行。自然から感じたものと対応しあっている(照応)の感じ、鏡のイメージと語った。
 私も「光は光を演じ 水は水を演じる」が好きである。自分自身を繰り返す。そのとき、透明になり、強くなるものがある。他人を演じることでは到達できない境地のようなものが、そこからあふれてくる。

あと3ふんで  木谷明

ブルーインパルスを見たいと言ったのはあなただったのに
きょうは私が見ましたよ
地味なもんでした
グレイ色したけむりをながして
ひとが亡くなりましたから
レインボーカラーの煙は見ましたよ以前に
あれはお祝いの前日の予行演習で娘の卒業式の日で
けれど
本番はありませんでしたひとが亡くなりましたから
こうなるとひとはいつでも死んでいるから
いつでも虹の橋をとかいうくせに
しかたない
ほんとの空は虹をみせてくれる
あの日のそらに弧を描く人のいるということも
見上げたということもいつでも偶然で
あと
3ふんで飛んでくるから一緒に見らんと言ってもらい
色のことは誰も言わずに

今日いっしょにみましたよ

 音が柔らかい。口語体が流れるように書かれている。詩的散文になっている。死のイメージが「ほんとの空は虹をみせてくれる」と結びつく。短い一行が独立している。感覚がするどい。空の広さを感じる。運命、人の生命を感じる。短い行に強い意思を感じる。
 好きな行は「ほんとの空は虹をみせてくれる/あの日のそらに弧を描く人のいるということも」の二行、さらに書き出しの一行に、短い行も不思議な感じ……。
 私は三行目の「地味なもんでした」が非常に印象に残っている。こころに突然あらわれた「現実」という感じ。西脇の、ふいの口語の出現に似ている。全体が口語だが、とくにこの一行の口語性が強い。口語出歩かないかを意識しない無意識の口語。この無意識に発せられた「地味」の奥にあるもの、「地味」と言わずにはいられない何か、もっと派手であったら(もっと華々しくあってくれたら)違った思いができたかもしれないが隠れている。
 「地味」が逆に、ほんとうに見ている何か(見たかった何か)を浮き彫りにしている。

草  池田清子

わたしのまちがいだった
わたしの まちがいだった
こうして 草にすわれば それがわかる
と 八木重吉はうたった

娘が れんげ畑で花冠をつくった
立花山の頂上は 爽快だった
許斐山では ゴロと一緒に走りまわった
公園では 青いシートの上でお弁当

今 寝っ転がって 外を見ている
空ばかりが広い

抜いたのに この雨でまた 生き生きしている
たくさんの 犯してきたまちがいを
とりかえしのつかないまちがいを
そんなに深く見ないで

 「まちがい」の意味は何だろうと考えた。よくわからないが「許斐山では ゴロと一緒に走りまわった」はよくわかる。「とりかえしのつかない」からの、最後の二行は誰に対して言っているのだろうか。
 「子ども(娘)に対してではないですか」「花かもしれない」「自分自身に対してかも」という声を聞いて、池田「雑草に対して、言っている」。
 このあと、誰にも理解されなかったのには驚いた、と池田は感想を漏らしたが。
 しかし、これは、いいことではないだろうか。読者が全員同じこたえを、そしてそれが池田の書いた通りだとしたら、その詩は実はつまらないのではないか。詩は論文や法律ではではない。死の感想を語るのは、学校のテストではない。答えがばらばらなのは、その詩のひろがりが広いからではないのか。詩のことばが豊かになってきているからではないのか。
 読んだ人の感想がみんな違っている、というのは詩にとっては、とても大切なことだ。

白い空  杉惠美子

水平線の膨らみを過ぎて
白樺並木を歩いていたら
ふと小さな音がした

細い木だけれど
風を受けても大きくは揺れず
枝々を通過させて
互いを響き合わせるように
立っていた

空を見上げると
あらゆる自然の力の先に
透明なエネルギーで囲まれた
小さな渦

  何枚もの紙をめくって 
  めくって
  探し続けた
  裏も表もなく
  問いばかりが書かれた
  紙だった

  その問い達は
  渦を巻きながら私を誘
  い
  大きな渦となった

  そして時が経ち
  少しずつ角度が変わり
  問いと答えは繰り返し
  ながら
  同じになっていた

気がつくと
小さな渦は
見えないけれど
私を待っていてくれたようで
少しずつ静かな気持ちになった

私は救われて
包まれて
沈黙の白い空に吸い込まれていく

 白い空
     
水平線の膨らみを過ぎて
白樺並木を歩いていたら
ふと小さな音がした

細い木だけれど
風を受けても大きくは揺れず
枝々を通過させて
互いを響き合わせるように
立っていた

空を見上げると
あらゆる自然の力の先に
透明なエネルギーで囲まれた
小さな渦

 

何にも見えないけれど
私を待っていてくれたようで
少しずつ静かな気持ちになった

 

私は救われて
包まれて
開いた空に
吸い込まれていく

 同じタイトルの、長い詩と短い詩。
 目に見えないものを比喩の力で浮かび上がらせている。「何枚もの紙をめくって」がいい。長い詩の三字下げをした三連がいい。前の部分は情景の描写。三字下げの部分は心象風景と思って読んだ。
 字下げの部分は意識が「小さな渦」に集中している。その集中力の結果が「比喩」になる。比喩が生まれるとき、意識は集中している。これは逆に言えば、意識の集中を欠いた比喩は、上滑りな連想、つまり「常套句」ということになるだろう。

 

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

 

 

 

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする