破棄された詩のための注釈(16)
「車止めの杭を挿すための穴」ということばがあった。そのことばに接続して、「鉄の半パイプ」が埋まってる。いや、「半パイプ」のなかにいちど引き込んだ沈黙が、積みかさなって、だんだん「半パイプ」の縁からあふれようとしている。「受話器」という比喩が突然やってきて、「つかわれなくなったことば」をこだまさせながら、その一番深いところ、つまり「底」に埋めるように主張した。「電話の声を聞いたのは、一時間前なのか、きのうなのか、一億年後のことなのか。」
抜かれて、そばに転がされている車止めは、受話器がつれてきた奇妙な回線のかわりに「断ち切られた悲しみ」ということばを、自分の足元に、斜めに広げたかった。公園の入口の街灯が生み出す影のように。「人間のものではない悲しみの黒を四角い形で草の上に伸ばしているのが見えた」。そう書いたあと、「悲しみ」という文字を傍線で消した。その細い傍線の形で雨が降るのは、三日後である。
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ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
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2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。
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思潮社 |
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リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」 | |
ヤニス・リッツォス | |
作品社 |
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