新井啓子「蕃茄」(「かねこと」18、朝日カルチャーセンター福岡「現代詩講座」、2020年10月31日発行)
新井啓子「蕃茄」は激しい夏の日の驟雨を描いている。
「ブランコが揺れて」の一行の「緩」が、妙に印象に残る。激しい雨のことを書いているのだが、その雨にのみこまれていない。
それは、
という書き方にも何か通じるものがある。
「土はびしょ濡れで」「果実もびしょ濡れで」と、「視線」がおなじ何かを探しているような感じ。ことばが妙な「重なり」と「ずれ」の間で動いている。
これはいったいなんなのだろう、と私はしばらく考える。
特に変わったことが書いてあるわけではないし、特に奇妙というわけでもない。書かれていることが、そのまま「事実」としてつたわってくる。疑問をもつ必要はない。こんなところでつまずかなくてもいいのかもしれない。
このことばが、雨が上がった後、こんなふうに変わっていく。
傷ついたトマトをすぐに調理する。それがごく自然に挿入されている。その組み込み方が、とても美しい。それは自分を失わない「余裕」のようなものだ。
おなじことばをくりかえすとき、どこかで新井は深呼吸のようなものをしている。突然の変化に正確向き合うために、立ち止まって、深呼吸し、それからその世界へ入っていく。そういう「リズム」がある。
この「リズム」は、私は、自分の「肉体」では実行できない。せっかちだから、立ち止まり、深呼吸できない。だから、すぐそばにそういう「生き方(思想)」を実感すると、瞬間的「奇妙」と思ってしまうのかもしれない。
で、その「奇妙」が、この新井の詩の「トマトの調理」のように静かに展開し、具体的な「もの」になっていくのを見ると、あ、美しいという感動に変わる。
新井にとってはあたりまえのことを書いただけなのかもしれないけれど、その「あたりまえ」というのは新井の「正直」がそのまま出ているところだ。
そして、「正直」を通って、詩は最初に戻っていく。
最初に引用するとき省略したのだが、詩は、こんなふうに始まっていたのだ。
トマトの部分が、新井の「正直」であることが、このことばのくりかえしによって、とてもしっかりしたものになる。
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新井啓子「蕃茄」は激しい夏の日の驟雨を描いている。
風が強まる
ブランコが揺れる
ブランコが揺れて
激しい雨が来た
子どもたちが消えて
ベランダのポールから滴が落ちる
「ブランコが揺れて」の一行の「緩」が、妙に印象に残る。激しい雨のことを書いているのだが、その雨にのみこまれていない。
それは、
トマトは雨に弱いというから
濡れないように 軒下へ寄せるけれど
あっという間に プランターの土はびしょ濡れで
果実もびしょ濡れで
という書き方にも何か通じるものがある。
「土はびしょ濡れで」「果実もびしょ濡れで」と、「視線」がおなじ何かを探しているような感じ。ことばが妙な「重なり」と「ずれ」の間で動いている。
これはいったいなんなのだろう、と私はしばらく考える。
特に変わったことが書いてあるわけではないし、特に奇妙というわけでもない。書かれていることが、そのまま「事実」としてつたわってくる。疑問をもつ必要はない。こんなところでつまずかなくてもいいのかもしれない。
このことばが、雨が上がった後、こんなふうに変わっていく。
雨はトマトに傷を作った
柔らかい果肉が切れて
そこから微笑んだ口の形になっている
きつい言葉は似合わない形
傷口が開いて
雨の歌がこぼれているから
果実ごと切り取り 籠に入れる
しゅん と
傷を落とす
部屋にあおい香りがひろがる
傷ついたトマトをすぐに調理する。それがごく自然に挿入されている。その組み込み方が、とても美しい。それは自分を失わない「余裕」のようなものだ。
おなじことばをくりかえすとき、どこかで新井は深呼吸のようなものをしている。突然の変化に正確向き合うために、立ち止まって、深呼吸し、それからその世界へ入っていく。そういう「リズム」がある。
この「リズム」は、私は、自分の「肉体」では実行できない。せっかちだから、立ち止まり、深呼吸できない。だから、すぐそばにそういう「生き方(思想)」を実感すると、瞬間的「奇妙」と思ってしまうのかもしれない。
で、その「奇妙」が、この新井の詩の「トマトの調理」のように静かに展開し、具体的な「もの」になっていくのを見ると、あ、美しいという感動に変わる。
新井にとってはあたりまえのことを書いただけなのかもしれないけれど、その「あたりまえ」というのは新井の「正直」がそのまま出ているところだ。
そして、「正直」を通って、詩は最初に戻っていく。
輪切りにして白い皿に乗せる
窓の外でブランコが揺れ出す
ブランコが揺れ出す
掃除機タービンのうねりが響く
細く風が起こって
水に濡れた歌が始まる
最初に引用するとき省略したのだが、詩は、こんなふうに始まっていたのだ。
昼下がり
ブランコが揺れる
ご近所の掃除機タービンのうねりが響く
トマトの部分が、新井の「正直」であることが、このことばのくりかえしによって、とてもしっかりしたものになる。
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1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
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週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
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費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
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また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
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嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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