井上瑞貴「悲しい生き物よ、口を開けて雨を受けよ」(「侃侃」36、2022年02月28日発行)
井上瑞貴「悲しい生き物よ、口を開けて雨を受けよ」。タイトルを読んだ瞬間、音がきれいだなあ、と思う。音が、まず、ある。それからイメージがあらわれる。最後に、意味、があらわれる。意味、というのは、つまり「付け足し」である。
それは、本文を読んでも同じ。
願わなかった方へとおれた交差点を結んでぼくたちの地図が成る
この書き出しは、少し工夫すれば短歌になるだろうと思う。井上には、短歌のような、つまり、どこかしか、伝統的な「音」のうねりがある。
私は九州のひとのことばのリズムが苦手だが、井上のことばの響きは、美しいと感じる。たぶん、どこかで、私の知っている「短歌」の音と共通するものがあるからだろう。
この詩では「ぼくたちの」という音が絶妙である。「私たちの」「おれたちの」「われわれの」では、何と言えばいいのか、「叙情性」が違ってきてしまう。
(意味を無視して言えば、「願わなかった方へ」という書き出しは「叶わなかった方へ」と書き直したい衝動にかられる。私は、引用を確認するまでは、理由はわからないが「叶わなかった」と読んでいた。無意識に読み替えていた。そのために、ちょっと、書いていることの「つじつま」があわなくなっているかもしれない。でも、書き直さない。この括弧内の部分は、「叶わなかった」と誤転写していることに気づいて書き加えたもの。)
悲しみよりも浅く悲しみよりも深い夜空から
約束にない雨が降り注ぐ
月曜日の冷たい雨の最後の一滴が
狭い広場につづく狭い道を流れて落ちている
「悲しみよりも浅く悲しみよりも深い」の「悲しみよりも」というくりかえし、「狭い広場につづく狭い道」の「狭い」のくりかえし。それは、ことばを長くするというよりも、逆に短く感じさせる。余分な(?)ことばが、ことばを短く感じさせる。
と、書くとき。
この「短さ」とは「意味」が省略されるということである。
そのことばは、もう聞いた。だから、はやく先を話して。
そういう感じで、くりかえされる「悲しみよりも」や「狭い」を私は聞いている。同じ音が、音としては無駄なのに、意味を省略する。そこに、おもしろさがある。
同じことばのくりかえしではないが「約束にない」とか「月曜日の」ということばも、意味ではなく、次のことばを誘い出すための「音」にしかすぎないと感じてしまう。
見上げると今から欠けてゆく月が雨上がりに浮かんでいる
地上には愛されるために愛したきみが立ち去る後ろ姿が残されている
この二行も、それぞれ独立した短歌になるだろう。二行つづければ、連作短歌の一部になるだろう。
長い会話のあとで口に運ぶ紅茶のように冷えた夜が広がっている
この一行も、そうだな、短歌だな。
こうした長い行に比べると、ときどきさしはされまる短い行は、まるで「屁」のような感じがしてしまう。どこかで息継ぎをしなければならいのかもしれないが。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(skypeかgooglmeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
**********************************************************************
「詩はどこにあるか」11月号を発売中です。
142ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。
<a href="https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=1680710854">https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=1680710854</a>
(バックナンバーは、谷内までお問い合わせください。yachisyuso@gmail.com)
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com