詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(25)

2018-03-09 08:18:09 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(25)(創元社、2018年02月10日発行)

 「なんにもしたくない」の最終行は「歌うたうのももうやめた!」。それまでの行が「歌」になる。

ああなんにもしたくない
カツ丼なんか食いたくない
友だちなんか会いたくない
女となんか寝たくない
話したくない聞きたくない
(略)
ああなんにもなんにもしたくない
お日さまかんかん蝶々ひらひら
どこかで赤ん坊が泣きわめく
いまは三月それとも四月
それとも真夏の昼下がり
歌うたうのももうやめた!

 「したくない」(正確には「たくない」か)が繰り返されている。声に出すと自然にリズムができる。これが「歌」か。「うたう」か。
 「ジャズドのラマー」に、「われわれは人間の肉のリズムを拍ち、それに酔う」ということばがあった。「声」がリズムをもつと、やはり人はそれに酔う。どんどんことばがあふれてくる。
 繰り返しは「したくない」だけではない。「カツ丼なんか」「友だちなんか」「女となんか」の「なんか」。それに「なんにもなんにも」もそうだが、「ないないづくし」の「ないない」「お日さまかんかん」の「かんかん」、「蝶々ひらひら」の「ひらひら」。よく見れば「蝶々」も「ちょう」の繰り返し。(「蝶」単独でも意味は同じだからね。)「それとも」も繰り返し。
 しかし、

どこかで赤ん坊が泣きわめく

 には繰り返しがなくて、リズムが変わる。それが「終わり」を予告しているかもしれない。
 ここが、谷川の「本能」のような部分だね。
 黙読していても、はっとするが、朗読ならば黙読よりもはっきりと変化がわかると思う。
 ここに「音楽」がある、と言えるかもしれない。
 「変化」もまたリズムの重要な要素だ。
 「音楽」を知らずに育った私がいうと信憑性がなくなるが、谷川はどこまでも音楽的なのだ。



*


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目次

小川三郎「沼に水草」2  岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13  タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21  最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28  鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
     *
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83

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谷川俊太郎の『こころ』を読む
クリエーター情報なし
思潮社

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