最近、少しずつ、国立演芸場に通って、落語などを聞いているのだが、これが、非常に面白い。
この日は、「国立名人会」と銘打った公演で、日頃の定席の舞台とは、一寸、違った雰囲気で、事前に、演目が表示されており、それに、出演者も多少の気負いがある。
今回は、林家木久扇のトリで、橘屋圓太郎や昔昔亭桃太郎と言ったベテランが登場したのだが、私が興味があったのは、女流噺家の「林家きく姫」の「動物園」と、女流講談師の神田陽子のオペラ講談「椿姫」であった。
二人とも、期待を裏切らない、中々美形で、非常に魅力的な舞台で、思っていた以上に、楽しませて貰った。
この「動物園」は、以前に、ラジオか何かで聞いた記憶があるのだが、元は、上方の話で、その時は、主人公は虎であったのだが、今回、きく姫の語ったのは、黒い毛皮のライオンで、江戸落語になると、物まねを潔しとしないのか、虎がライオンに替わるのが面白い。
月給100万円の職を紹介して貰った男の仕事は、移動珍獣動物園の黒いライオンで、死んだライオンの縫いぐるみを被って檻の中を歩き回ること。
ライオンの歩き方などを教えて貰って、檻に入って初日のお披露目となるのだが、紹介のアナウンスが、特別サービスとして「虎とライオンの猛獣ショー」をお目にかけると言って、仕切りの柵を上げてしまう。
獰猛な虎が、大きな吠え声を上げて、のっしのっしと近づいて来たので、男は、恐怖のあまり「南無阿弥陀仏」と伏せて震えていると、虎がライオンの耳元で、「心配するな、わしも100万円で雇われた」。
きく姫は、木久扇の弟子とかで、枕を入門話から始めて、結構面白かったが、秀逸は、動物園のアナウンスのウグイス嬢の声音で、やや、中腰に伸び上がって、声を落として色気十分な可愛い声で、語りかける。
ライオンの左右に歩く仕種なども、そこは女性らしい優しさ軟らかさがあって、中々、ムードがあって良い。
何か、女性らしい新作落語を創って、女性ムード満開のドラマチックな噺を語れば、非常に面白いだろうと思って聞いていた。
前座で、林家扇が、掛け軸を褒める「一目上がり」を演じていて、結構上手いし面白いと思ったのだが、やはり、男の語る噺であって、多少の無理があり、これから、扇のような若い女流噺家も出て来るのであろうから、例えば、中年女性を主人公にしたずっこけた話とか、或いは、狂言話のように、アイロニーとウイットに富んだエスプリの利いた女性を主人公にした噺を語れるようになったら、もっと、落語の魅力が増すだろうと思う。
神田陽子の講談は、オペラの椿姫を脚色した面白い作品で、張扇で釈台を叩くのは同じだが、むしろ、白石加代子の「源氏物語」の舞台を見ているような感じで、実に表情豊かに、ビオレッタの仕種を演じて、時には悩ましい雰囲気を醸し出すなど、色香十分の語り口で、講談を聞いているのか、一人舞台を見ているのか錯覚を起こすくらいに、臨場感があって面白い。
ビオレッタとアルフレートの会話など、愛の二重唱で切羽詰って同じセリフが延々と続くと、途中で、誰か止めてと、とアイを入れるなど芸が細かい。
私は、オペラの椿姫は、随分あっちこっちで見ており、お馴染みの舞台なのだが、やはり、講談となると、短時間で総てを語ろうとするので、多少無理があって、はじめての人には分かり難いのではないかと思った。
オペラと違っていた神田陽子の脚色は、第二幕第二場のアルフレートがドゥフォール男爵と賭けをして勝って得た札束をヴィオレッタに叩きつけるところを、決闘に変えて追放の身と言うことにしていた。
枕で、ドレスデンのゼンパー・オーパーでのオペラ鑑賞の時に、ドイツ人の中でただ一人、和服を着て行っていたので、非常に持てたと言う話をしていたが、私は、劇場前で写真を撮っただけで、中に入ったことはないけれど、ドレスデンともなれば、やはり、日本人は少ないのであろう。
さて、トリの木久扇の出し物は、「松竹梅」。
とにかく、枕が長いので、本題は、予定時間ぎりぎりになってからの語りで、10分延長の熱の籠った舞台であり、非常に面白かった。
大変お世話になった先輩は、林家三平、立川談志、林家正蔵だと、三人との思い出を語っていたのだが、面白かったのは、落語家でありながら元参議院議員であった談志の選挙運動の模様で、とにかく、談志の物まねが実に上手い。
「松竹梅」は、木久扇の得意ネタのようだが、松五郎、梅吉、竹蔵の3人が「名前がめでたい」と言うことで、出入り先のお店のお嬢さまの婚礼に招かれたのだが、初めてなので、どうしたら良いのか分からず、三人そろって岩田の隠居に相談に行って、余興の指南を受ける話。
まず松が『なったあ、なったあ、蛇になった、当家の婿殿蛇になった』。次に竹が『なに蛇になあられた』。最後に梅が『長者になぁられた』と言うのだが、覚えられなくて、本番で、『亡者になあられた』と言う噺である。
これなどは、木久扇の年輪を経た芸を聞く楽しみなのだが、私などは、噺は噺として味わいながら聞くけれど、やはり、面白いのは、即興に近い枕の方で、夫々に、噺家の創作と言うか噺づくりの味があって、カレント・トピックスの扱い方など実に面白いことがあり、楽しみにしている。
この日、木久扇は、かなり、良く語る話のようだが、結婚式の司会者の話をしていて、例のおかしな祝電で、
「前のことは忘れてがんばれがんばれ。麹町警察署一同より」
「仕事が立て込んでおり、結婚式に行かれなくてゴメン。次の機会には必ず行くよ」と言った面白いコント(?)を語っていた。
この日は、かなり、遅くチケットを買ったのだが、被りつきが空いていて、臨場感たっぷりに楽しませて貰った。
その前に、国立能楽堂で、渋い狂言と能を鑑賞した後での落語であったので、リラックスして、大いに笑わせて貰ったのである。
この日は、「国立名人会」と銘打った公演で、日頃の定席の舞台とは、一寸、違った雰囲気で、事前に、演目が表示されており、それに、出演者も多少の気負いがある。
今回は、林家木久扇のトリで、橘屋圓太郎や昔昔亭桃太郎と言ったベテランが登場したのだが、私が興味があったのは、女流噺家の「林家きく姫」の「動物園」と、女流講談師の神田陽子のオペラ講談「椿姫」であった。
二人とも、期待を裏切らない、中々美形で、非常に魅力的な舞台で、思っていた以上に、楽しませて貰った。
この「動物園」は、以前に、ラジオか何かで聞いた記憶があるのだが、元は、上方の話で、その時は、主人公は虎であったのだが、今回、きく姫の語ったのは、黒い毛皮のライオンで、江戸落語になると、物まねを潔しとしないのか、虎がライオンに替わるのが面白い。
月給100万円の職を紹介して貰った男の仕事は、移動珍獣動物園の黒いライオンで、死んだライオンの縫いぐるみを被って檻の中を歩き回ること。
ライオンの歩き方などを教えて貰って、檻に入って初日のお披露目となるのだが、紹介のアナウンスが、特別サービスとして「虎とライオンの猛獣ショー」をお目にかけると言って、仕切りの柵を上げてしまう。
獰猛な虎が、大きな吠え声を上げて、のっしのっしと近づいて来たので、男は、恐怖のあまり「南無阿弥陀仏」と伏せて震えていると、虎がライオンの耳元で、「心配するな、わしも100万円で雇われた」。
きく姫は、木久扇の弟子とかで、枕を入門話から始めて、結構面白かったが、秀逸は、動物園のアナウンスのウグイス嬢の声音で、やや、中腰に伸び上がって、声を落として色気十分な可愛い声で、語りかける。
ライオンの左右に歩く仕種なども、そこは女性らしい優しさ軟らかさがあって、中々、ムードがあって良い。
何か、女性らしい新作落語を創って、女性ムード満開のドラマチックな噺を語れば、非常に面白いだろうと思って聞いていた。
前座で、林家扇が、掛け軸を褒める「一目上がり」を演じていて、結構上手いし面白いと思ったのだが、やはり、男の語る噺であって、多少の無理があり、これから、扇のような若い女流噺家も出て来るのであろうから、例えば、中年女性を主人公にしたずっこけた話とか、或いは、狂言話のように、アイロニーとウイットに富んだエスプリの利いた女性を主人公にした噺を語れるようになったら、もっと、落語の魅力が増すだろうと思う。
神田陽子の講談は、オペラの椿姫を脚色した面白い作品で、張扇で釈台を叩くのは同じだが、むしろ、白石加代子の「源氏物語」の舞台を見ているような感じで、実に表情豊かに、ビオレッタの仕種を演じて、時には悩ましい雰囲気を醸し出すなど、色香十分の語り口で、講談を聞いているのか、一人舞台を見ているのか錯覚を起こすくらいに、臨場感があって面白い。
ビオレッタとアルフレートの会話など、愛の二重唱で切羽詰って同じセリフが延々と続くと、途中で、誰か止めてと、とアイを入れるなど芸が細かい。
私は、オペラの椿姫は、随分あっちこっちで見ており、お馴染みの舞台なのだが、やはり、講談となると、短時間で総てを語ろうとするので、多少無理があって、はじめての人には分かり難いのではないかと思った。
オペラと違っていた神田陽子の脚色は、第二幕第二場のアルフレートがドゥフォール男爵と賭けをして勝って得た札束をヴィオレッタに叩きつけるところを、決闘に変えて追放の身と言うことにしていた。
枕で、ドレスデンのゼンパー・オーパーでのオペラ鑑賞の時に、ドイツ人の中でただ一人、和服を着て行っていたので、非常に持てたと言う話をしていたが、私は、劇場前で写真を撮っただけで、中に入ったことはないけれど、ドレスデンともなれば、やはり、日本人は少ないのであろう。
さて、トリの木久扇の出し物は、「松竹梅」。
とにかく、枕が長いので、本題は、予定時間ぎりぎりになってからの語りで、10分延長の熱の籠った舞台であり、非常に面白かった。
大変お世話になった先輩は、林家三平、立川談志、林家正蔵だと、三人との思い出を語っていたのだが、面白かったのは、落語家でありながら元参議院議員であった談志の選挙運動の模様で、とにかく、談志の物まねが実に上手い。
「松竹梅」は、木久扇の得意ネタのようだが、松五郎、梅吉、竹蔵の3人が「名前がめでたい」と言うことで、出入り先のお店のお嬢さまの婚礼に招かれたのだが、初めてなので、どうしたら良いのか分からず、三人そろって岩田の隠居に相談に行って、余興の指南を受ける話。
まず松が『なったあ、なったあ、蛇になった、当家の婿殿蛇になった』。次に竹が『なに蛇になあられた』。最後に梅が『長者になぁられた』と言うのだが、覚えられなくて、本番で、『亡者になあられた』と言う噺である。
これなどは、木久扇の年輪を経た芸を聞く楽しみなのだが、私などは、噺は噺として味わいながら聞くけれど、やはり、面白いのは、即興に近い枕の方で、夫々に、噺家の創作と言うか噺づくりの味があって、カレント・トピックスの扱い方など実に面白いことがあり、楽しみにしている。
この日、木久扇は、かなり、良く語る話のようだが、結婚式の司会者の話をしていて、例のおかしな祝電で、
「前のことは忘れてがんばれがんばれ。麹町警察署一同より」
「仕事が立て込んでおり、結婚式に行かれなくてゴメン。次の機会には必ず行くよ」と言った面白いコント(?)を語っていた。
この日は、かなり、遅くチケットを買ったのだが、被りつきが空いていて、臨場感たっぷりに楽しませて貰った。
その前に、国立能楽堂で、渋い狂言と能を鑑賞した後での落語であったので、リラックスして、大いに笑わせて貰ったのである。