熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか ーあるITリーダーの冒険

2020年10月27日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   Robert D. Austin, Shannon O'Donnell, Richard L. Nolan 共著の「ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか -あるITリーダーの冒険  The Adventures of an IT Leader」
    Harvard Business Schoolの出版であるから、当然、MBAコースのケース・スタディの小説形態の本である。
   2016/8/2にUpdated Edition が出ているので、日進月歩のITのテキストとしては、しきりにアップデイトしなければならないのであろう。

   もう、半世紀位前になるが、MBAコースの選択で、ハーバードのようなケーススタディ主体のビジネス・スクールは、英語にハンディのある私には、討論の輪の中に入って議論をするなどは到底無理だと思って、幸い、講義主体のウォートン・スクールに入れたのだが、間接的には多少縁があったので、ハーバードのケース・スタディ教本には馴染みがあった。
   久しぶりに、MBAの学生に帰ったような気持ちで、この本を読んでみたが、面白かった。
   アメリカの場合には、トップ・ビジネス・スクールを出れば、すぐに、大企業の上級職に職を得られるのだが、例えば、人事部長であっても、人事や労務や労働争議など、多くのパーソナル・マネジメントのケース・スタディを学べば、実際のビジネス上の難問題や試練に、膨大な専門書や資料を駆使して挑むことになり、その方面の最新最高の理論と知識を取得し激烈な実務を経験したのと同じことなのであるから、当然、人事部長適格者と言うことであろう。
   尤も、システムが違うので、日本に帰れば、慣れと経験と勘と追従の経営であるから、飼い殺しか、スピンアウトし起業して上手く行けば成功するか、、、、。

   金融サービス会社IVKで、CEOが、前任を解雇したので、ローン・オペレーションのトップという中核事業を率いていた有能な役員ジム・バートンが、突然、全く畑違いの「CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)」として、IT部門の責任者への異動を命じられる。
   ITや技術部門に全くの素人であるバートンが、不本意な異動を受け入れたものの、まず、ITを知らないバートンに困惑する部下と如何にコミュニケイトして管理するかから始まって、冒頭から、苦労の連続である。
   巨費を投じた大型プロジェクトの遅れとシステム開発会社との契約解除(プロジェクトマネジメント)、ハッカーとおぼしき外部からのシステム攻撃を受けてコンピューターがダウンして解雇の瀬戸際(リスクマネジメント)、掛け替えのない優秀な部下の副業にどう対処するか(人材マネジメント)、標準化とイノベ―ションを追求してITシステムをレベルアップ、成長戦略との整合性、IT部門のコスト・予算管理等々、次から次へと難問が襲いかかってくる。
   果たしてバートンは、CIOとして成功できるのか、バートンの立場に立って、様々な難局を乗り越えていきながら、ITマネジメントを学ぼうというわけである。
 
   登場人物は、CEO,前任のCIO,IVK社の役員、バートンの主要な部下たち、バートンのGFの経営コンサルタント、若い知識抜群のITオタク等々多岐にわたっていて、小説仕立てのストーリー展開なので興味深く読める。
   5部18章構成で、主な章の最後に、ケーススタディ形式で設問が設えてあって、数人で輪読して議論し合うとよい。
   IVK立て直しのために登用されたCEOなので、会社の業績向上、成長発展を指向するトップとのバートンの鬩ぎ合いが興味深い。

   このケースは、ITの知識のないズブの素人の「ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか」という問題を提起しているのだが、ITマネージャーとして必要な技術の知識は明らかになっており、その気になれば学ぶことが出来るが、ビジネスマネージャーとしての高度なマネジメント知識は、暗黙知であって習得は容易ではないので、成功すれば、両刀遣いのバートンのケースの方が有能なCIOとしては、適切ではないか。
   今後、CIOが、経営者の最も重要な一角を占めるであろうことを考えれば、尚更、そのような気がする。
   実際に、このケースでは、バートンは、一年後に成功して、CEOから次のCEOだと示唆され、更に、もっと大きくて優秀な金融企業二社から、ヘッドハンティングのオファーが来たところで、終っている。
コメント
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