熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

実際の翻訳や通訳にも難しさ

2020年10月07日 | 
   便利にはなりつつあるのだが、まだ、実用にはほど遠いAIによる機械翻訳の限界について書いてきた。
   しかし、実際の翻訳や通訳にも限界があって、これまで、色々な不都合に遭遇しており、その難しさを感じている。
   
   まず、私自身、経済学や経営学の本で、主に英語からの翻訳本を読むことが多い。
   最近では、随分、翻訳の質が向上したと思うのだが、それでも、時々、意味不明となって原文に当たりたくなる。
   原書を買って並行読みすれば良いのだが、それもままならず、その部分を飛ばして推察読みしているので、それ程不都合はない。
   原書を直接読めば良いのだが、歳の所為もあって、MBAの頃の馬力も意欲も失せてしまって、楽な翻訳で済ませている。
   大学生時代には、翻訳書も少なかったのだが、酷い翻訳本が出ていた。
   英米の政治経済社会などの制度なり仕組みが分っておらず、頓珍漢な翻訳に出くわすことが多かったような気がしたのだが、このあたりの微妙な感覚は、欧米での生活が長くなって実際に体感してから、気づくことになった。

   英語の専門書などの翻訳で大切だと思うことは、翻訳者が、英語の実力が相当程度に高くて、それに、その専門分野において専門家であるか、その分野の知識が十分あることである。
   願わくば、欧米で生活した経験があるなど、欧米の社会への接触経験があることが望ましい。
   科学の世界なら、比較的言語だけで正確に表現され得ても、社会科学というか人文科学の分野では、その背景にある変転極まりない歴史や社会現象などが錯綜しているので、対象となっている分野に関する直の知識なり理解があるに越したことはないのである。

   これは、新井教授の意味を理解できないAIの機械翻訳とも関係あると思うのだが、国が違って政治経済社会が違い、歴史伝統が違えば、同じ言葉であっても、その意味する内容に大きな差があって、その違いが分っていなければ、誤解をしてしまうと言うことである。
   例えば、銀行という単語だが、英語ではBANK、ポルトガル語ではBANCO。
   今のことは分らないのだが、私がブラジルに居た頃のBANCOは、インフレが激しくて、政府発表のインフレ指数(コレソン・モネタリア)にしたがって給料や金利などが調整されていたし、乞食でも小切手を切ると言った日本とは大分違っていたし、BANKでも、米英においても差があり、日本語の「銀行」に訳されてしまうと、読者は、何処の国の銀行も、日本の銀行の概念で読み理解してしまう。
   これなど、一例だが、カルチュア・ショックを背後に秘めた翻訳が随所に現われており、その本の重要なサブジェクトであった場合には、その差を知らない翻訳者が誤解したまま翻訳すると、内容などがスキューしてしまう心配がある。

   翻訳の場合には、出版するという目的がはっきりしているので、比較的問題は少ないが、これが、通訳となると話が変ってくる。
   これまで、海外調査団に参加して海外に行ったことがあるのだが、その調査の対象とする知識なり経験のない通訳を雇って、台無しになったことがあった。
   その点、経団連などは、専属の通訳を随行するのだが、私の参加した団体などでは、コスト削減で適当な通訳を使うことが多かったので、通訳次第で、調査目的が十分に達せられなかったという悲劇をみた。

   日本語もそうだが、どうしても、その言葉を上手く表現できる言葉が外国語にはないという、また、その逆もある。国によって、ものの考え方や気質、歴史や文化伝統も違えば、バックグラウンドが全く違うのであるから、翻訳や通訳だけで、上手く意思が通じるなど至難の業である。
   何を居ても、大切なことは、積極的な異文化異文明との遭遇チャンスを増やすことで、翻訳や通訳に頼らず、意思の疎通を図ることである。
   話が、一気に飛んでしまうが、近年、とみに若者の外国への留学生が激減しているという。
   個人的な留学意欲も減退しているようであるし、また、企業の海外派遣留学制度の廃止が響いているようで、我々が若い頃、Japan as No.1の頃は、銀行や商社を筆頭に日本企業が、競って留学生を派遣して、欧米先進国の学生と鎬を削らせたことを考えると、寂しい限りである。
   欧米の最高教育機関や科学技術研究機関などに有意な若者を送り込んで、最高峰の教育機会を与えて切磋琢磨させることが、今、日本の将来のために求められているコトだと思っている。
   
コメント
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