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ミステリ感想-『スティームタイガーの死走』霞流一

2013年09月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
構想だけで製造されなかった幻の蒸気機関車「C63」を現代によみがえらせ、線路を走らせる――。
夢のような鉄道の旅に集まった一癖も二癖もある乗客たち。
だが鉄道ジャックに遭い、列車の内外に次々と死体が現れ、ついには機関車が姿を消した!?

~感想~
2001年このミスで4位にランクインした良作。できれば先入観を持たないためこんな駄感想は読まずに本書を手にとっていただきたい。

ゲーム「刻命館」に例えるべき死体をおもちゃにするような豪快な物理トリックと、タイトルに込めた動物雑学でおなじみの作者だが、今回はどちらもやや薄味。
作者は当初、作中の時間経過と現実の読書時間の経過が同じになるよう目論んでいたそうで、次から次へと事件が起こり、大した手掛かりも得ていないはずの探偵役が片っ端からそれを解決する展開はスピード感抜群。
しかし早いのはいいが、どの事件もトリックも小粒で、これでなぜこのミス4位なのかと首をかしげてしまう。
だが本番は表に見えていた事件が片付きエピローグに入ってから。予想だにしていなかった仕掛けが一つ二つ三つ四つと次々と顔を出し、あ然とさせられた。スピード感あふれる展開はこれらを隠すための目くらましだったのだ。

むやみに明るいエンディングにあんなトリックやこんなトリックが惜しげもなく絡み、中盤に単なる小ネタのように語られた雑学を最後の最後に伏線回収。そして物語が幕を閉じてから教えられる、作品全体に張られていた意外過ぎる仕掛け。
はっきり言ってこれらのほとんどは、本筋の事件に関わらない余談のようなものだ。だが本筋と余談を主客転倒させたような構成、終盤のトリックの連打には完全に意表をつかれた。
「霞お兄さんの死体を飛ばそう」のコーナーだけではない作者の底力を見せつけられた。霞流一の代表作の一つに挙げられるだろう。


13.8.30
評価:★★★★ 8
コメント (2)