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ミステリ感想-『美人薄命』深水黎一郎

2013年12月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大学の単位取得のため独居老人宅への給食宅配のボランティアに励む礒田総司は、ユーモアあふれる隻眼の老婆・内海カエに出会う。
戦争に人生を狂わされ、意中の人と添い遂げられなかった彼女の語る壮絶な過去に、いつしか総司は深い感銘を受ける。
だがその過去には総司の人生も一変させるある秘密が隠されていた。


~感想~
まず帯に書かれた宣伝文句のだいたいは嘘、とまでは言わないが大袈裟かつまぎらわしいので、購入時には要注意。
老人たちや脇を固めるキャラや、終盤にひょっこり現れる探偵役はいささか類型的ながら、ネットスラングも交えた語り口は軽快。このあたりはもともと芸術を題材にした作品をいくつもものし、予備知識の無い読者をも引きつけてきた腕が冴える。
なかでも中盤で明かされる「彼女」のもう笑うしかないようなキャラの濃さには呆気にとられた。どんだけ設定盛ってるんだお前は。

そしてなんといっても眼目は内海カエの過去に隠されたある秘密である。章の合間に旧字体で描かれてきた壮絶な過去が、ある事件をきっかけに物語を反転させつつ、巧みな仕掛けへと一変するのは見事。そのまま終わったら妄想乙になってしまう話を最後の最後にもう一度ひっくり返すのも心憎い。
大筋から結末までベタといえばベタなのだが、忘れ得ぬ物語であるのは確か。芸術物やロジックだけではない作者の実力がいかんなく発揮された、現在の代表作に挙げられるだろう良作である。


13.12.9
評価:★★★★ 8
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