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ミステリ感想-『顔 FACE』横山秀夫

2015年03月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
半年間の休職を経て復帰した平野瑞穂はD県警の広報課に配属された。
次々と特ダネを上げる新聞記者。連続放火に怯える女性。あまりに達者すぎる犯人の似顔絵。訓練のさなかを狙って起きた銀行強盗。射撃の達人の婦警が奪われた拳銃。
転属先で次々と起こる事件を彼女は独自の捜査で追う。


~感想~
「陰の季節」所収の「黒い線」に登場した平野巡査を主人公とした短編集。時系列に沿って描かれるが連作としての仕掛けはないものの、いずれ劣らぬ良作揃いである。

似顔絵描き以外にこれといった技能を持たず、卓越した頭脳はおろか捜査経験もろくになく「黒い線」では渦中の人物ではあるものの脇役に過ぎなかった彼女を主役に据えたのがまず異例。これだけ凡人に近いただの一警官を主役に据えた刑事小説は珍しいだろう。
しかも本格ミステリ顔負けのトリックとギスギスした雰囲気に定評のある横山作品の警察に放り込まれ、はたして満足に活躍できるのだろうかと心配になるところだが、そこはさすがの横山秀夫。刑事小説としてミステリとして、そして何より一巡査の成長譚として申し分のない物語に仕上がっている。
特に掉尾を飾る「心の銃口」では作中で最も大きな事件に巻き込まれながらも、確かな成長と周囲の視線の変化を……と、休職経験のある主人公なのにあっさり「本書は瑞穂が●●で終わる」と酷いネタバレをかましている文庫版解説と同じ轍を踏んではいけない。
とにかく作者のファンはもちろん、刑事小説を愛する向きなら迷わず読むべき一冊である。


15.2.26
評価:★★★★ 8
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