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ミステリ感想-『もうひとつの恋文』連城三紀彦

2015年08月05日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
酒場で3度会っただけの女が、冗談を真に受け手枕一つ持って同棲をしにやってきた……手枕さげて
盛り場に入り浸るようになった中学生の息子は、兎を主人公にした作文で父の浮気を告発する……俺ンちの兎クン
「紙で出来ていたら困る物は?」ヒモ同然の売れない作詞家に私はなぜか惹きつけられる……紙の灰皿
ぶっきらぼうな若い友人が、私の妻を好きだと不意に言い出して……もうひとつの恋文
3ヶ月後の海外赴任を前に転がり込んできた別れた亭主との同居を、今の亭主は平然と受け入れた……タンデム・シート


~感想~
直木賞を受賞した「恋文」を彷彿とさせる大胆なタイトルに恥じない好短編集。
一言で言えば「連城版だめんず・うぉ~か~」で、表題作を除いて主人公は揃いも揃ってダメ男。特に「紙の灰皿」にいたってはこれはダメ男というよりクズ男なのではという圧倒的クズっぷりで、それに比べれば幾分かはおとなしいものの、他の作品の連中も似たり寄ったり。
「手枕さげて」は男ではなく女がダメで、冷静に考えるとクッソ怖いヤンデレぶり、「俺ンちの兎クン」の息子は本格ミステリなら間違いなく殺人に手を染めている狂気を秘めと、精神の均衡を崩す境界線ギリギリに立っているか、とうに彼岸に渡っているキャラばかりなのだが、どれも終わってみれば「死ぬほど良い話」になっているのが連城作品の恐ろしいところ。
ミステリとして見ても「もうひとつの恋文」と「タンデム・シート」は見事などんでん返しが決まっており、ただただ死ぬほどエロいだけ(※ミステリ味もあるよ)の「少女」も書ければ、ただただ死ぬほど良い話(※ミステリ味もあるよ)の本作も書ける、連城三紀彦はやっぱりすごい!


15.7.29
評価:★★★ 6
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