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ミステリ感想-『教会堂の殺人』周木律

2015年08月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人里離れた火山の中腹に建つ教会堂。
そこを訪れた人々が次々と変死体で発見される。
宮司司警視正、そして善知鳥神も導かれるように教会堂に現れ――。


~感想~
堂シリーズ第五弾。こ れ は 酷 い。
一から十まで話が破綻しており、もはや作者が何をやりたいのかすらわからなくなってきた。
以下↓ネタバレ↓注意

今までも何のために動くのか、何のために建てられたのかわからない「堂」ばかり出てきたが本作はその中でも群を抜いている。
明確に「人を殺すため」だけに建てられているのだ。だからといって某御大の超有名作品へのオマージュになっているわけでもなく、むしろ話の展開は、登場人物がのこのこ教会堂へ出向いて行く→まったくルールを説明されないままゲームに挑まされる→失敗したら死ぬ という、まるで矢野龍王「左90度に黒の三角」マジリスペクトな代物。
龍王に勝るとも劣らない説明不足っぷりで、キャラも読者もルールのわからないゲームになすすべも無く殺されていく様を見せつけられ、目が点になるばかり。ゲームもせっかくの図面を省いたおかげでトラップは単にそういうものだと納得するしかないわかりづらさ。
ミステリ的仕掛けにいたっては皆無で「今回は堂ではなく人が回るのだよ!ナ、ナンダッテー」とこのシリーズはやっぱり回ることが前提なんだと納得させてくれるものの、ラストは淡々とレミングスのように死んでいくシリーズキャラたちを見送った後に、神々が「私だ」「お前だったのか。まったく気づいていた」と暇を持て余すだけの脱力ぶり。

そんなことより何よりストーリー展開が完全に破綻しており、数学者たちが教会堂を訪れた理由が「貴重な算額を見に来た」というもので、教会堂はまさにその算額の価値がわかり、見られては困る有能な数学者を殺すための装置なのだが、そのくせ算額は迷宮ではなく入り口にこっそり飾ってあり、本当に有能な人ならトラップ自体に掛かることなく持ち帰れてしまうという矛盾っぷり。だいたい見られたら困るなら貸し金庫にでも預けとくか処分しとけよ。
また神々は手をこまねいていたら黒幕に殺されてしまうと危惧するのだがその黒幕はといえば100歳近い高齢で、たぶん数年も海外逃亡してれば勝手に死ぬんじゃないかな。

せっかく5冊続けて育ててきたシリーズキャラは大半が死に絶え、
前作終盤の展開で「てっきり10作くらい続けるのかと思ったら一気にシリーズをたたみに来た」と驚いたのにカバー見返しで「折り返し地点を過ぎました」と10作確定演出が出てしまいうんざりした。
売りの一つである数学ネタもゲーム理論にさらっと触れるくらいで、シリーズ開始当初の煩雑さは減ったのはいいが、もはやお約束程度の役割しかなく必要性すら感じない。
翻って見るに森博嗣のS&M、そしてVシリーズの物語としての面白さ、ミステリとしての素晴らしさばかり思い出してしまう堂シリーズ。もはや挽回するには完結編で作者自らリーマン予想を証明するくらいしかないと思うのだが。

15.8.6
評価:なし 0
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