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ミステリ感想-『堕天使拷問刑』飛鳥部勝則

2016年12月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
両親と死別し祖母に引き取られた中学生の如月タクマ。
そこは奇妙な因習の多く残る寒村で、余所者の彼は冷たい仕打ちを受ける。
彼が村に来る前に起こっていた、密室で全身を絞め殺された祖父、雪の密室で首を斬られた母子三人という2つの事件。
タクマの周囲でも事件が相次ぎ、そして天使と悪魔が現れた……?


~感想~
こんな表現ができるほど作品を読んではいないが「飛鳥部ワールド全開!」と呼びたくなる異形の本格ミステリ。

冒頭、密室で全身の骨が砕けるまで絞め上げられた男と、雪に囲まれた密室状況下で瞬時に首を切断された三人の謎が立て続けに現れるが、それらを置き去りにしてハブられる主人公の日常パートが延々と描かれる。
チンピラ上級生のやり過ぎ感あふれる陰湿ないじめや、謎の集団リンチの儀式はともかく、本筋と一切関係ないようなB級ホラーなエピソードが次々と起こり、中学1年生がおよそ持ち得ない驚異的なウンチク(オタク同級生ばかり目立つが主人公のタクマも大概詳しい)を交えて悪魔学を語り合い、オススメモダンホラーを21ページにわたり紹介するあたりは作者の趣味全開。
登場人物の9割は人格破綻者で、終盤にはとうとう現物まで飛び出して大暴れする段に及ぶと、そもそものジャンル自体がわからなくなるが、一騒動が治まるとそこからいきなり本格ミステリとしてまとまり出すのには驚かされた。

奇人・変人達の奇矯な振る舞いや言動の裏に紛れていた伏線が次から次へとあらわになり、3つの密室トリックはいずれもそれはいくらなんでも無理だろうという代物ながら「だって本当にそうだった」という厳然たる事実を証拠に、強引に押し通す手法にはもはや笑うしかない。
そして最後の最後には急転直下で淡く切ない良い話に落ち着いてしまうという、使い古された言葉を用いればジェットコースターのような起伏に富んだ展開で、この作者にしか成し得ない驚異の作品世界に終始圧倒された。

邪推かも知れないが、この2年前に盗作騒動で絶版となった「誰のための綾織」がなければ、間違いなく何らかのランキングに絡んだだろうと確信している。


16.12.8
評価:★★★★ 8
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