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ミステリ感想-『13・67』陳浩基

2017年11月04日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
黒と白の間の真実
2013年。大富豪が自宅で殺され、単純な強盗殺人と思われたが現場には不可解な点が散見される。
ロー警部は家人を集め、かつて「天眼」とうたわれたが病床に伏す名刑事クワンの前で聴取を行う。
末期癌で昏睡状態のクワンの脳波を測定し、YESとNOの二択だけで事件解決に挑むと言うが……。

任侠のジレンマ
2003年。マフィアのボスながら芸能界の首領として君臨する左漢強。
彼と袂を分かち分家を立てた任徳楽の隠し子が、左の秘蔵っ子のアイドルと諍いを起こす。
警察にはアイドルが何者かに襲われる様を映した動画が届く。任の報復なのか? 彼女の死体はなぜ消えたのか?

クワンのいちばん長い日
1997年。定年退職を迎え刑事として最後の日を過ごすクワンのもとへ、次々と事件の一報が届く。
硫酸爆弾、交通事故、マンション火災、そして8年前にクワンが捕らえた宿敵の脱走。
顧問として警察に残るよう説得されたクワンのいちばん長い日が始まる。

テミスの天秤
1989年。警察は雑居ビルに潜む凶悪犯を包囲。
しかし一味は突如として撤退を開始し、猪突猛進で知られる刑事は新米のローらとともに突入を決断。
激しい銃撃戦の末、検察は内通者の存在を確信する。

借りた場所に
1977年。借金返済のため香港に出稼ぎに来たグラハムら英国人一家。
廉政公署で警察の腐敗を暴く彼のもとに、息子を誘拐したという脅迫電話が届く。
犯人の指示に振り回される中、クワンはある不可解な行動を取る。

借りた時間に
1967年。貧困にあえぎながらその日暮らしをする私は、隣人が爆弾テロを計画していることを知る。
知人の警官に事情を話すと、彼は一般人の私の知略を見込み、強引に捜査協力を依頼する。


~感想~
海外ミステリにはほとんどアンテナを張っていない自分にさえ、ものすごい高評価が続々と聞こえていた本作。
これはさすがに見逃せないと読んだところ、期待値を軽々と上回るどころか、連作形式でありながら全編が年間ベスト級……いやさオールタイム・ベスト級の「歴史的」と冠して良い大傑作だった。

作者は香港出身で台湾の「島田荘司推理小説賞」を受賞してデビューし、日本のミステリにも造詣が深く、愛読作家に横溝正史、京極夏彦、清涼院流水を挙げているという。清涼院流水!?
だがむしろ濃厚に感じられるのは純然たる刑事小説でありながら王道を往く本格ミステリでもある横山秀夫の風格で、横山に数年単位の時間を与え連作形式の中編を書かせたら…というレベルにまで本作は達している。

上記のあらすじから期待しうる物語が、常に想定の上のさらに上を行く展開を見せ、しかも一人の刑事の活躍を通じて50年近い香港の歴史を俯瞰して見せた「本格ミステリと社会派ミステリの融合」という使い古された言葉を史上最も体現した作品といって過言ではなく、おそらくミステリ史にその名を刻むことは間違いないだろう歴史的傑作である。

いやもう本当に少しでも興味があるなら読んで欲しい。命を賭けてもいいくらい絶対面白いから。
「この世に完璧なミステリが一つだけある。それは「13・67」さ」とまで言いたくなるが、唯一の瑕疵があるとすれば、訳者あとがきで兄弟取り違え事件が起こっていることくらいだろう。


17.11.3
評価:★★★★★ 10
コメント (2)