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ミステリ感想-『Mの女』浦賀和宏

2017年11月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
作家の西野冴子は、高校時代の友人が紹介した彼氏のタケルに不信の念を抱く。
ファンが投書で知らせてきた隣人の自殺や、従弟の妻の流産の陰にちらつくタケルの姿。
そして彼らに冴子への接触を呼びかけた白石唯という女と、冤罪事件を執拗に追う女性作家。
一家惨殺事件や一家焼死事件にもタケルは関わっているのか?


~感想~
これは評価に困った。と言うのも本作は作中でいちおうの決着はついているものの、この一作だけで全てが語れる物語ではないのだ。
なぜなら本作は電子書籍限定で配信されている「メタモルフォーゼの女」という短編シリーズと密接な関係があり、そのシリーズでは本作に顔を出す人々が主役として描かれている。
しかも現在3作出ているそのシリーズの副題がそれぞれ「生まれなかった子供たち」、「月の裏文明委員会」と、浦賀ファンならピンと来るはずだが、松浦純菜シリーズの「生まれ来る子供たちのために」やノンシリーズの「地球平面委員会」とまでリンクしている気配で、さらに「Mの女」にはすでに4冊のシリーズが出ている桑原銀次郎まで登場しており、ひょっとすると「メタモルフォーゼの女」は浦賀作品の総決算的な立ち位置かも知れないのである。
3作目の「月の裏文明委員会」は先月に配信されたばかりだし、今後もシリーズが続く可能性は高く、いずれはまとめて書籍化もするだろう。全てが出揃うまでとてもじゃないが評価を下せはしない。

それでもいちおう内容に言及すると、身も蓋もないことを言えば「浦賀版白夜行」で、あちらがサイコパス無双ならこちらはサイコパスBASARAといった具合で、ちょっと笑ってしまうほどあからさまに白夜行をパク…意識したような設定も散見される。
物語はこのまま終わったら浦賀がこんな超普通の作品をわざわざ書いた理由はなんなんだろう、と思ったところからいくつか捻りを加えるも、消化不良のまま幕を閉じてしまい、もやもや感が後に残った。
このもやもやを吹き飛ばすような「浦賀版幻夜」あるいは「サイコパスBASARAヒーローズ」の刊行が待たれる。


17.11.15
評価:★★☆ 5
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