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ミステリ感想-『屍人荘の殺人』今村昌弘

2017年11月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
神紅大学のホームズを自認するミステリ愛好会の明智恭介と葉村譲は、警察にも認められた本物の名探偵である剣崎比留子の協力を得て、不穏な空気の漂う映画研究部の夏合宿…という名の合コンに加わる。
ところが合宿先の紫湛荘に到着するやバイオテロが発生し、付近で行われていたフェスの参加者がゾンビ化し紫湛荘に殺到。
そんな絶体絶命の窮地のさなかに、事件は起こった。

2017年鮎川哲也賞


~感想~
ゾンビに触れずにあらすじを書いている記事も多いが、やはりこの作品の最大の魅力はゾンビパニックと本格ミステリの融合にあるため、あえてあらすじはネタバレさせてもらった。

今年は白井智之の新刊が出なかったと思ったら似たような時期にこれが出た。ホラーからコメディまであらゆるジャンルと融合してきたゾンビは本格ミステリとも抜群の相性だった。
実のところミステリ部分もゾンビ部分も非常にオーソドックスな内容で、話の展開はゾンビを除けばこれまで無数に書かれてきたいわゆる雪の山荘物に過ぎず、ゾンビの設定はこれといった説明を要しないほど典型的なものである。
だがこの2つの典型例が融合することで相乗効果を発揮し、作者が目指した通りの、誰も読んだことのないミステリが誕生。
まだ書き慣れていないせいか、伏線は後々に伏線として生きてくることが見え見えのものばかりだし、どうフォローしてもアンフェアの謗りは免れられないような面もあるにはあるが、それでも少なくとも鮎川賞史上最高傑作の一つに数えられることは間違いあるまい。

またこれだけ工夫のない(といっては語弊があるが)いたって普通のゾンビの設定でこんなに面白いミステリが産まれるなら、ゾンビ自体にひねりを加えればさらなる飛躍が――と思ったがそれがそもそも白井智之だった。

なお巻末に付された選評だが、しかたのないことだがネタバレ三昧で、しかもまるで示し合わせたように、選考委員3人の選評を合体させると内容のほぼ九割が書かれているのには笑った。ネタバレを騒がれていたのは知っていたが、まさかこんな巧妙なトリックを仕掛けていたとは……。
くれぐれも選評は先に読まないようご注意のほどを。


17.11.10
評価:★★★★ 8
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