今年のノーベル平和賞を バングラデッシュのムハマド・ユヌス氏が受賞した。彼が長年行ってきたことは、本当の意味での地域振興である。大きな組織や巨大な資本を有する財界などでは決して取り組めなかったことである。
弱者の銀行といわれる”グラミン銀行”を彼が、僅かの私財を投じて設立したのは1976年である。この銀行の特徴は、融資相手が農村の女性に限られていたことにある。社会的にも宗教的にも立場の弱い女性に、無担保、無利子で融資することで社会参画の機会と責任を持たせたのである。
融資内容も農村での生産分野に限られたもので、金額も決して大きなものではなかった。融資事業の相談や指導についてもきめの細かい取り組みをして、融資対象が広がり、次第 に定着してきたのである。返済率も99%を実現していた。
エリート経済学者であったユヌス氏は、理論だけの経済界に失望し、世界最貧困層の救済に乗り出したのである。理論ばかりの何処かの国の大臣になった経済学者とは大違いである。
ユヌス氏の受賞は、市場経済が世界を席巻し、効率優先の論理が農村の隅々までいきわたろうとしているわが国に、大きな問題を投げかけているように思える。何が本当の意味での地域の振興につながるか、何が人々を幸せにするのか、何が環境を守るのか、グラミン銀行に学ぶことが多い。大きくすることや、貨幣価値を優先追求することが、日本の田舎を疲弊させ、環境を悪化させているのである。
ムハマド・ユヌス氏とグラミン銀行のノーベル平和賞の受賞は最近にない朗報である。