今世間では、不二家の不祥事件で騒がしい。私は、乳製品に係わる者として非常に複雑な気分である。牛乳 の賞味期限を越えて使用したからである。彼らが、安全のためのマニュアルを履行しなかったばかりか、クリスマス前だったので、企業倫理を優先して隠した ことは許されない。
更に遡って調査すると過去に、30件ばかりを隠蔽していたり食中毒事件を公表していなかったのである。企業の体質として許されない、消費者には黙っていればいい、バレなければ良いなどとする、企業倫理は許されない。
ところがである。正確に言うと、牛乳は腐らないのである。牛乳は多少の管理は必要ではあるが、腐らないのである。遊牧民族は、牛乳を皮袋に入れたりしていつまでも管理して口にする。牛乳(馬乳、羊乳でも)は少し時間が経つと揺れて、脂肪はバターになる。それを食べると、残りは次第に発酵してヨーグルトになる。それを食べると、消化し易いホェーという透明なものが残り、これも発酵して飲むことができる。チーズもこの課程の中で、貯蔵食品として生産されるようになった。
牛乳は、放置すると乳酸菌が分解してPHが4近くに下がる。強酸性になって他の細菌が発育し難い状態になる。これは発酵乳と呼ばれ、その時の乳酸菌が腸内を掃除してくれるばかりでなく、乳糖が分解されてオリゴ糖という大変消化の良い糖分になる。これが健全な牛乳の、放置した姿である。牛乳は腐らない。発酵して人にとても優しい商品に変化するのである。では、市販の牛乳がそのようになるか?
答えは、ノーである。
市販されている牛乳は、健全な細菌は滅菌され、脂肪は微粒子に分解されて牛乳のどこにでも均等になるように、ホモゲナイズされているからである。だから、不二家の事件は牛乳の本質を知るものにとって、今回の事件は、もう一つの牛乳の本質を見えなくしているのである。
本当の牛乳は腐敗しないのである。科学の力で、細菌を追い出してパックした市販の牛乳は、現実問題として数ヶ月は品質が落ちないと思われる。ロングライフ牛乳(LL牛乳)と大筋で変わらないパック牛乳は数ヶ月は開かなければ変質はしない。ところが、わが国では海外との競合の関係で、市販の牛乳には賞味期限を設けられている。
わが国でLL牛乳を認めると、海外から飲用乳が輸入されるからである。チーズなどの乳製品が、海外から入ってきてはいるが、飲用乳はすべて国産である理由がここにある。
本当の牛乳は腐らない。発酵するだけである。賞味期限を過ぎると廃棄されるのは、もったいないと思う。不二家事件は何かと考えさせられるものである。