詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

デイミアン・チャゼル監督「ラ・ラ・ランド」(★★★★)

2017-02-27 10:05:51 | 映画
監督 デイミアン・チャゼル 出演 ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン

 前評判の高い映画は、どうも苦手だ。ほんとうにおもしろいのか、と構えてみてしまう。
 で。
 この映画、冒頭の高速道路のシーンがすばらしくて、「あ、これはほんとうに傑作なんだ」と思い込んでしまう。よく撮ったなあ。これだけ見れば、あとは見なくてもいいかなあ、と思うくらい。
 そして、そうなのかもしれない、と思う。
 ミュージカルが全盛のころは、私は子供でほとんど映画を見ていない。最初に記憶しているミュージカルはリバイバルで見た「ウエストサイド物語」か「屋根の上のバイオリン弾き」か。思い出せない。この二本はどちらも舞台が先にあり、それを映画化したもの。ダンスの動きが早い。
 「ザッツ・エンター・テインメント」に登場する映画はリバイバルか特別上映でしか知らない。リアルタイムで見ているものがない。
 だから、まあ、いい加減な感想になるのだが。
 この映画の「ミュージカル」部分、特にダンスシーンは「ザッツ・エンター・テインメント」時代のダンスにとても似ている。私は、あまりなつかしいという気持ちにはならないが、リアルタイムで「ザッツ・エンター・テインメント」時代の作品を見ているひとなら、とてもなつかしいだろうなあ。フレッド・アステア、ジーン・ケリーなどが出ていた時代のダンスの感じにとても似ている。
 ライアン・ゴズリング、エマ・ストーンが天文台のプラネタリウム(宇宙)でダンスするシーンは「ザッツ・エンター・テインメント」時代の「セット」の感じに非常に近い。
 ただ、この「近い」も、リアルタイムの体験がないので、どうしても「頭」で整理した感想にすぎない。
 これが、どうも困る。
 なつかしいというよりも、ファンタジー感が強すぎる。感情がリアルに感じられない。「昔の方がよかった」という感じの方が強くなる。
 特に、二人が最初に歌って踊る夜景の見える丘の道路のシーンは、エマ・ストーンがせっかく靴を履き替えるのに、「ダンスの競争」という感じにならない。フレッド・アステアと女優の場合は、ダンスを踊るということを超えて、ダンスの自己主張があったと思う。この映画のなかでジャズが重要な位置を占めているが、ジャズの演奏者の自己主張のぶつかり合い、ぶつかり合いながらひとりでは到達できない高みに行ってしまうという高揚感がない。あ、あんなふうに自分の感情が「肉体」の動きになって、相手と「感情」を呼吸し合えればいいなあ、という気持ちに離れない。どこか遠くを見ている気持ちになってしまう。
 まあ、今のダンスに比べると昔のダンスは簡単なので(あるいは見慣れている感じがするので)、そう思うのかなあ。ダンスそのものにのみこまれるという感じがしない。
 歌も、ライアン・ゴズリングがふつうの感じ。引き込まれない。歌手の役ではないから、これくらいの方が「リアル」なのかもしれないけれど。
 でも、ミュージカルというのは、やっぱり歌とダンスに引き込まれてこそミュージカルだと思うので、「なつかしい」という実感がない私には、なんとなくもの足りない。「ザッツ・エンター・テインメント」の時代も、観客はあんなふうに踊れるようになりたいと思いながら見たのではないだろうか。
 ファンタジーと先に書いたけれど、「絵本」を見ているような、妙な気持ち。リアルな欲望が湧いてこない。この映画を見て、あ、あんなふうに踊りたいと思うひとはいるのだろうか。(冒頭の高速道路のシーンは、あんなふうに高速道路でみんなで踊れたら楽しいだろうなあ、やってみたいなあという欲望を刺戟されるが、それ以外は欲望を刺戟されない。)

 でも。

 最後のエピソードはよかったなあ。予告編にあったライアン・ゴズリング、エマ・ストーンのキスシーンにつづく再会とその後。「空想」なのだが、空想だからこその「リアル」があふれている。主人公のふたりになりきって、どきどき、わくわくしてしまう。あんなプライベートフィルムが自分にもあったらうれしいなあと思う。「幸福」はなんと美しいんだろう、と信じ込んでしまう。幸福なとき、ひとは歌を歌い、踊りたしてしまう。人生がミュージカルになる。ああ、いいなあ。
 冒頭と、このラストだけなら、私は★5個をつける。
 「空想でした」と告げるのも、この映画の場合、不思議と美しい。
                        (天神東宝5、2017年02月25日)



 
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