詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

深沢レナ「神経症のレッサーパンダ」

2017-02-20 10:21:54 | 詩(雑誌・同人誌)
深沢レナ「神経症のレッサーパンダ」(「ぷらとりあむ」1、2017年01月21日発行)

 深沢レナ「神経症のレッサーパンダ」は動物園でレッサーパンダをみたときの詩。同じところをまわり続けている。「僕たちはその様子を長い間眺めていたが/もしかしたら神経症なのかもしれないね、という結論に達した」と書いたあと、

硬い雨が透明な薄いカーテンとなって
僕たちと彼を一つの空間の中に閉ざした

 「一つ」ということばに引き込まれた。これは、すぐにこう言いなおされる。

ガラス一枚を隔てて
見られているのは僕たちなのか彼なのか
回っているのは彼なのか本当は僕たちなのか
そんなことを考えながら
僕たちはずいぶん長いあいだ彼の前に立っていた

 「一枚」ということば、「一つ」につながることばが出てくるが、これは「一つの空間」を否定する。「一枚のガラス」がレッサーパンダと僕たちを隔てる。しかし、そこに「否定」が入ることで、逆に直前の「一つ」が強くなる。
 そして「僕たち」と「彼(レッサーパンダ)」の区別がなくなる。「空間」ではなく「僕たち」と「彼」が「一つ」になる。
 この変化が、「隔てる」という「矛盾」を含んでいるために、とても「自然」になる。こういう書き方では「説明」したことにならないのだが、私はそこに「自然」を感じた。「論理」的には矛盾しているというが、矛盾を含むのだけれど、その矛盾を「解消する」のではなく、「飛び越す」。あるいは矛盾そのもののなかに「入っていく」と言えばいいのか。
 「一つ」ではないものが「一つ」になってしまう。
 そこから、「一つ」を離れ、人間に戻っていく。人間に戻っていく、というのは変な言い方かもしれないが。

指先が冷たく痛みはじめ
少しあたたまろうと
小さな食堂に入ってコーンポタージュを頼んだ
それは粉っぽくて、薄くて
そしてなによりあたたかかった

 「粉っぽくて、薄くて」はまずい。まずいのだけれど、逆に温かさが強調される。いや、温かさを発見し、そこに集中していく。この矛盾(いやなもの)の飛び越え方もおもしろい。「人間に戻る」と書いたけれど、ここはレッサーパンダが「人間になる」と読んだ方が楽しいかもしれない。

 で。
 その最後。

僕たちはコーンポタージュを飲みながら
神経症のレッサーパンダのことを思い出し
あの尻尾を首に巻いてみたらきっとあたたかいだろうね、という結論に達した

 「思い出し」で完全に「人間(僕たち)」に戻って「結論」を出す。「結論に達した」というのは、前にも出てきた。
 あ、深沢はいつも「結論」を求めてことばを動かしているのか、と私はこのときになって、やっと気づく。
 「結論に達した」が反復されることで、前半と後半が「二部構成」で重なり合う。「前半」の散文的な部分はまさに散文であり「事実」を外側から「客観的」に描いたもの。「後半」は「心情(心理)」風景を描いたもの、ということになるのか。
 「事実」(客観)から出発し、心情(主観)をくぐり、それを統合することで「結論」にする。その動きを「詩」と考えているのかもしれない。

 うーん。
 しかし「結論」は深沢ひとりが抱え込むことにして、詩では「結論」を書かない方がおもしろいかもしれないなあ。この詩の場合、最後の三行がない方が、寂しくて、レッサーパンダになった気持ちになれる。
 深沢は人間に戻ってきたいのかもしれないけれど、私はレッサーパンダのままコーンスープを飲んだ方が「あったかい」と思う。「神経症」からときはなたれて、ゆったりした気持ちになれる。私は、その「人間になったレッサーパンダ」になってみたいなあと思うのである。首巻きにはなりたくないなあ、とも。

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千人のオフィーリア(メモ29)

2017-02-20 09:28:03 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ29)

水は見ていた、水をみつめるオフィーリアを。
水は晴れ上がった空を映す水の色。

梢から雨の名残が落ちてくる。水面に小さな輪を描いては消えていく。
水は聞いていた、その音楽に耳をすませるオフィーリア。

高いところで知らない小鳥が鳴いた。
さえずりは鋭くちらばる光になった。

水は見ていた。
オフィーリアが水を踏むのを。




*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)、残部僅少。
1000円(送料込み/料金後払い)。
yachisyuso@gmail.com
までご連絡ください。
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