不死身のつもりの流れ星
最果タヒ
PARCO出版
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最果タヒ『不死身のつもりの流れ星』(2)(PARCO出版、2023年02月01日発行)
一回目の感想を書いてから時間が経つので、何を書いたか忘れてしまった。同じことを書くかもしれないし、まったく逆のことを書くかもしれない。どちらにしても、それはそのときの私の感想であることに違いない。
「高速の詩」は、
もっと高速な言葉がほしいな
愛している、なんて遅すぎる
という刺戟的なことばではじまる。
抱きしめるな、口づけするな、頬を寄せるな、
恋をするな、ぼくの名を呼ぶな、
この否定の命令形もいいなあ。
しかし、その詩の最後。
彗星 でもぼくはきみに命名する権利がある
だからきみを、恋人と呼ぼう
私は、ここでつまずいた。ことばが「高速」ではなくなっている。ブレーキがかかっている。あるいは、止まっていると言った方がいいかもしれない。
つぎの「ホテルの詩」の最後の二行。
これも、止まっている。しかし、この止まっている感じは、かなり心地よい。
さみしさよりももっと、安心に似た心細さに、
名前をつけなかった人類を、ぼくはたぶんずっと愛している。
そして、ここでは「命名する」のかわりに「名前をつける」という動詞がつかわれている。この二つの動詞には、共通するものがある。「命名する」「名前をつける」とは、それまで名前がなかったものに名前をつけるということである。
「名前のないもの」
これが共通なのである。
だからこそ、立ち止まらなければならないのかもしれない。「名前をつける」には「時間」がかかるのだ。その昔、ドン・キホーテは恋人にドゥルシネアという名前をつけるのに何日もかかった。自分自身に名前をつけるのにも何にもかけている。
でも、「名前をつける」とは、どういうことなのだろうか。
「意味」に傾くことを私は好まないが「鏡の星」にはこんな行がある。
遠くできらめいている人の手には鏡があって、
僕も同じように鏡を持ち、
その人のきらめきを返しているのかもしれない。
そう、言葉を持つ限りは期待してしまう。
「言葉を持つ」、そしてその「言葉」を「名前」として与える。そのとき、そこには「期待」があるのだ。「名づける」とは「ことば」をとおして「期待する」ことなのだ。「期待している」ことを明確にするために、そしてそれがどんなものであるか区別するために、自分自身の「ことば」が必要なのだ。
だから。
と書くとき、私は飛躍しているのだが(脱線しているのだが)、あるいは自分自身の論理を「誤読」しているのだが。
どのような「表現」も「名づける」なのである。
「きらめいている人」が実際に「鏡」を持っているわけではないだろう。しかし、手に「鏡」を持っていると書くとき(ことばにするとき)、最果ては「きらめき」に「きらめき」では伝えられない何かを「名づけている」のだ。
詩とは、膨大な、名づけの行為なのだ。
「高速の詩」に戻ろう。なぜ、
ぼくの名を呼ぶな、
と、「ぼく」は言うのか。それは、「きみ」が「名づけた名前」ではないからだ。そんな「他人のことば」には何の価値もない。聞きたくない。受け取りたくない。いままで存在していないことば、いままで存在していたことばを追い越して、新しい名前で呼べ、と言っているのである。
では、「彗星」を「恋人」と呼ぶのは、はたして新しい命名といえるか。判断はむずかしいが、少なくとも最果はここでは「彗星」を「彗星」以外のことばで存在させようとしている。
そういうことが、詩を書くということなのだと、あらためて思った。
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