中島隆志『倉庫の明かり』(紫陽社、2023年06月10日発行)
中島隆志『倉庫の明かり』は、「弱い強さ」とでもいうような感じを持っている。あることばが強い主張を持っているわけではない。どちらかというと「弱さ」を持っている。ここに書かれていることばだけで生きていくのはむずかしいと感じさせる弱さである。しかし、それは、目を引いてしまう。言い直すと、目を引いてしまう強さを持っている。あ、ここに「弱さ」がある。そして、それは守らなければ消えてしまうという弱さなのだが、そういう感じを呼び起こす強さである。
ながながと書いてもしようがない。たとえば詩集のタイトルになっている「倉庫の明かり」。そのなかほど。
そんなつもりはなくても
うっかり曲げたり
指紋をのこしたり
小さな失敗もかさなれば暗くなる
失敗を「かさねる」ではなく「かさなる」。ここに「よわさ」がある。かさねる「つもりはなくても」、かさなる。そして、それを「暗くなる」と感じている。何かを感じる力がある。ほんとうに「弱い」存在も、弱さを知らない「強い」存在も、この不可抗力の「かさなり」のことを自覚しないだろう。
この詩人には、「自覚」というものがある。それが「強さ」である、と言い直すことができるだろう。
この「自覚」は、こんなふうに書かれる。「輪郭のなかへ」。人文字をつくる子どもたちを描いている。
たとえばFLOWER[・]
そこは彼の定位置だった
「定位置」を知っている。
それにしても。
たとえばFLOWER[・]
か……。この一行、荒川洋司は大好きだろうなあ。
私は、こういう行は(ことばは)、どちらかというと嫌いなのだが、こういう行を好きというひとがいるというのは、とても大事なことだと思う。だれもが納得するわけではない(感動するわけではない)と知っていて、それでも、それをことばとして残しておく。これも「弱い強さ」かもしれないなあ。
何が、どうのと、具体的に書くことはできないのだが、1970年代の、詩のことばがまだ短くて、それこそ、書き手のみんなが未熟で、その未熟さの中にある「弱さ/強さ」の出会いが、なんとなくことばを支えていた時代を思い出したりもする。(みんな、と書いたが、「超売れっ子」の詩人のことではないよ。同人誌を出して、ほそぼそと自分を探していいた詩人のことだよ。)
詩集のつくりも、いまふうの「厚み」で勝負する(脅しをかける?)のではなく、ひっそりとしている。そこに上品さがある。私は、こう書いたあとできっとすぐに忘れてしまうだろうが、本の紙の質がとてもなめらかで気持ちがいい。そこに「ていねいさ」がある。それもいい。
私がいちばん好きなのは「つり橋」の二、三連。
ぼくはいま
大きなものを見たくて
つり橋を渡る
「トーストを食べて、何もかも放り出して、部屋に入って眠る。」
富士山麓で百合子さんは言う
その横でぼくは
小さな実のように固くなる
「富士山」は固有名詞であって、まあ、固有名詞とは言えないような「一般的」な存在だが、「百合子さん」は固有名詞であっても固有名詞とは言えない「無名」にのみこまれていく存在である。しかし、ね。この詩人、中島隆志は、それをきちんと受けとめて、ことばにする。「弱さ(無名さ)」を書くことで「強さ」に変えていく。
ここが美しい。
そのあとで、「その横でぼくは/小さな実のように固くなる」というのもいいなあ。「意味」にしてしまってはいけないのだけれど、その「小さな実」は、ほら、
たとえばFLOWER[・]
その[・]のようでしょ?
無関係なような詩なのに、どこかで「呼応」する感覚があり、それがこの詩集全体を貫いている。
書いた中島隆志もおもしろいが、その一行を含んだ詩を支える荒川洋司の、ことばの嗅覚も、いいものだ。
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