詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

和辻哲郎の「正直」

2023-12-08 22:59:26 | 考える日記

 私は和辻哲郎の文章が好きだ。なぜ、好きか。『桂離宮』のなかで、和辻はこう釈明している。さまざまなことを和辻は書いているが、

専門家の所説に基づいたところもあるが、主としてわたくしの現状から受けた印象によったのであって、歴史的に確証があったわけではない。

 林達夫なら絶対に書かないことを和辻は書いていることになる。
 「確証がない」ことを書く、というのは、著述家にとっては間違ったことかもしれない。しかし、「印象」には、「歴史的事実」とは別の真実があるだろう。生きている人間の真実、そのひとが生きてきた仮定で身につけてきた、そのひとの真実(事実)である。和辻は、客観的な歴史よりも、彼自身の歴史(個人の歴史)を優先する。そこから「歴史」へ近づいていく。和辻自身の「いのち」をひきずって、「歴史」へ近づいていく。
 「印象」は「推測(憶測)」に、つまり、思考へと変化する。その変化は「自ずから」起きるのである。そして、和辻は、この「自ずから」に対して正直である。
 そこに和辻の「自然」が滲んでいる。
 この「自然」を「道」と言い換えていいかどうかわからないが、私は言い換えたいと思っている。
 和辻のことばが「自ずからの力」で動いた瞬間、ことばが輝きだす。「ここが好き」というときの「好き」の感情に、嘘というものがいっさいまじっていない。だから「道」と言い換えたくもなるのである。

 『桂離宮』で和辻が書いていることは、「歴史(建築の過程)」的視点から見ると間違っているのかもしれない。しかし、そこに書かれている「印象」はとても鮮やかで説得力がある。「歴史的視点」からもおなじような「美の定義」に到達できるかもしれないが、それは無意識に動いてしまう「印象」の強さを持ちうるかどうかわからない。
 「間違い」があっても、私はかまわないと思う。私は「歴史家」ではないから、そういうことは気にしない。「間違う」ことでしかたどりつけない「真実」というものがあっても、私はかまわないと思っている。「正直」なら、それでいいと思っている。

 

 

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Estoy Loco por España(番外篇413)Obra, Alfredo Bikondoa

2023-12-08 21:59:21 | estoy loco por espana

Obra, Alfredo Bikondoa
Arquitectura y poética de la desaparición. (2023)

 De repente pensé en un edificio en Gaza que había sido bombardeado. Luego traté de ponerlo en palabras. 
  ふと、爆撃されたガザのビルを連想した。そして、それをことばにしてみた。


  

(Para la pareja de Gaza/ガザの恋人たちのために)

 ¿Cuál fue la música que escuché contigo? No recuerdo el nombre de la sinfonía que me dijiste que querías escuchar antes de morir. Esa sinfonía donde al final se eleva el sonido de muchas trompetas. Un sonido más fuerte que el címbalo amortiguó todos los sonidos. El silencio resuena en mis oídos. No puedo escuchar ningún otro sonido. Ni siquiera puedo escuchar mi voz llamando tu nombre. ¿O ya perdí la voz? Mi corazón grita, pero no puedo oír mi voz.
 La ventana está suspendida muy alta. No sé dónde se escondía, pero la oscuridad profundizó las grietas del edificio como el cielo. Ah, una luz tan transparente cae donde el polvo volador no puede llegar. Incluso en momentos como este, el sol llueve pura luz. El viento sopla. Recto sin doblarse.
 Si puedes escuchar mi voz, intenta decir mi nombre. Lo último que quiero recordar es mi nombre.
 
 君と聴いた曲は何だったか。君が死ぬ前に聞きたいと言っていた、その曲が思い出せない。最後にトランペットの音が立ち上っていくあの曲。その音を消すシンバルよりも強い音がすべての音を消した。耳のなかに、沈黙が耳鳴りになって響いている。他の音が聞こえない。君の名前を呼ぶ、私の声さえも聞こえない。それとも、私はもう声を失ったのか。こころは叫んでいるが、声にならないのか。
 窓が、あんな高いところにぶら下がっている。どこに隠れていたのか、闇が、空のようにビルの裂け目を深くしている。舞い上がる埃が届かないところに、ああ、あんなに透明な光が降ってきている。こんなときにも太陽は無垢の光を降らせている。風が吹いている。曲がらずに、まっすぐに。
 私の声が聞こえたら、ねえ、君、私の名前を呼んでみてくれ。私は最後に私の名前くらい思い出したいのだ。

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