アキ・カウリスマキ監督「枯れ葉」(KBCシネマ、スクリーン2、2023年12月30日)
監督 アキ・カウリスマキ 出演 アルマ・ポウスティ、ユッシ・バタネン
アキ・カウリスマキの映画は、いつも情報量が少ない。北欧家具のように、とてもすっきりしている。と書いた後でこんなことを書くと矛盾しているが、この映画は「映画に関する情報」だけは盛りだくさんである。映画そのものも登場するが、たくさんの映画がポスターで登場するし、ラストシーンにはチャプリンの「街の灯」がチャプリンという犬と一緒に登場する。その映画がらみのシーンでは、ふたつのシーンが私は気に入っている。
ひとつは主役の恋人二人がゾンビが登場する映画を見るのだが、それが終わった後、劇場を出てきた別の観客が「ブレッソンの田舎司祭の日記に似ている」とかなんとか言うのである。私は思わず笑いだしてしまった。そうすると、連れの別の男が「いや、ゴダールのはなればなれ(だったかな?)だ」と言うのである。笑いが止まらなくなった。まあ、人の感想だから、なんだっていいのだが。
もうひとつは、女の電話番号をなくした男が、映画館の前で女をまってたばこを吸っている。その吸殻がたくさん落ちているのを女が見る。男がここにいたのだとわかる。そのあと、男と女は再会する。そのときの「落ちているたばこの吸殻」がとてもいい。何もいわないけれど、何もかもがわかる。
イタロ・カルビーノの「真っ二つの子爵」に何やら謎々を残して「決闘の場所(待っている場所)」を示すシーンが出てくる。もし、その謎々を相手が見つけなかったら、謎々が解けなかったらどうなるのか、というようなことを作者は心配していない。同じように、このたばこの吸殻が落ちているときに女がそこを通り掛からなかったら、などということを監督は気にしていない。主人公なら、そこを必ずとおる。そして、その「意味」を理解する、と信じている。実際、映画を見ている観客(私)は、女がここで「あ、男が、ここに来ていた。いつか、ここで再び会える」と思ったに違いないと思い、その後、その「予測どおり」に男と女が出会うのを見るのだが。
なんというか、この「予測を裏切る笑い」と「予測どおりの安心」の組み合わせが絶妙である。おかしくて、かなしい。かなしくて、うれしい。ちょうどチャプリンの映画のように。しかし、チャプリンの映画のように「ほのぼの/ジーン」という感じではなく、むしろキートンのように「ドライ」なのがカウリスマキの味である。キートンの登場人物が「無表情」のように、カウリスマキの登場人物も無表情である。
恋愛映画なのに!
何度も出てくるカラオケシーンが傑作。だれひとり「楽しそうに」歌っていない。「盛り上がる」ということが全然ない。まるで、他人の歌なんかに興味がないという風に、自分が歌っている歌にさえ興味がない、という感じがしてしまう。最後の方に登場する女二人組の、タイトルも何も知らない曲は、これはもしかすると大ヒットするような美しい曲かもしれないと感じるのだが、あまりにもふたりがつまらなそうに歌うので、とてもおかしい。
私はあまのじゃくなのかもしれないが。
映画のラストシーン(ハッピーエンド)は、それはそれなりにいいのかもしれないが、男が電車にはねられるシーンで終わってもよかったかなあと思う。ほんとうにはねられたのか、そして死んでしまったのかわからないまま、単に何かが衝突する音が聞こえるというシーンで終わった方が、この映画らしくていいかなあとも思う。(実際、私はそこで映画が終わったと思い、そのあとまだ映画がつづいたので、かなりびっくりしてしまっのだが。)やっと実りそうな恋、それに出会ったふたりなのに、その恋に裏切られてしまう。ただ、あのとき、ふたりは出会った。こころが動いた。秋の枯れ葉が散るときのように、最後の輝きを見せた。その記憶が残っている、という感じの映画だったら、私はもっと感動したかもしれない。
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