詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(123)

2019-04-21 08:57:09 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
123 小アジアのあの町で

 アクティウムの海戦。予想しなかった結果をどう書くか。最初から改めて書き直す必要はない。

名前だけ入れ替えればいいのだ。
最後のところの「カエサルの紛い物である
オクタヴィアヌスの災厄から
ローマを解放した」を
「カエサルの紛い物である
アントーニウスの災厄から……」とすれば
きちんと帳尻が合う。

 こういうことは、あらゆる歴史に適用できるだろう。戦いの結果など、市民には関係がない。市民に関係があるのは、自分の存在、自分のアイデンティティだけである。

ゼウスが彼に与えし才能を尊び、力強きギリシャの保護者にして、
ギリシャの風習の名誉を尊重し、
ギリシャの領土全体で敬愛され、
(略)
業績をギリシャ語によって、韻文と散文の両方によって、
栄誉の正しき器であるギリシャ語を用いてこそ
永く伝えるであろう」

 繰り返される「ギリシャ」。それだけが市民の求めるアイデンティティだ。だれが統治しようが知ったことではない。ここに「市民の知恵」がある。
 カヴァフィスは「ギリシャの慣用句」を多用しているのではない、ギリシャのシェークスピアではないか、と私は勝手に推測しているが、この「市民の知恵」にもそれを感じる。「慣用句」とは「市民の知恵」の結晶である。

 l池澤は、こんなふうに書いている。

 彼らにとって戦いの帰趨はどうでもいい。ローマの勢いの前でいかにギリシャ文化を守るかだけが関心事なのだ。

 カヴァフィスは「慣用句」を多用することで、ギリシャ文化を守っている、守ろうとしているのだろう。「永く伝える」のは「オクタヴィアヌスの業績」ではなく「ギリシャ語」の強さだ。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 情報の読み方(番外篇) | トップ | 吉川伸幸『脳に雨の降る』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

池澤夏樹「カヴァフィス全詩」」カテゴリの最新記事