熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

人類文明論を考える(7)~文明繁栄の要因が衰退を招く

2010年04月20日 | 学問・文化・芸術
   青柳正規名誉教授の文明論の重要な指摘の一つは、いくつかの文明の興亡をたどると、その文明を繁栄させた原因や要素こそが、同じ文明を衰退させる働きをすると言うことである。
   余談だが、この考え方は、会社の経営についても言えることで、イノベーションの成功によって大成功を収めた会社が、その成功ゆえに新しい潮流にキャッチアップ出来ずに衰退して行くと言うことをクリステンセンが「イノベーションのジレンマ(原題は、イノベーターのジレンマ)」で説いており、エクセレント・カンパニーの多くが消えて行くのも故なしとしないのである。

   総延長約8万キロと言う立派な道路網を建設し、地中海には何千隻もの船が物資を運搬し、都ローマとアレクサンドリアでも半月以内で連絡しあえる通信網が確立しており、それらのネットワークが帝国内の地域や地方、そして都市や村々を緊密に結びつけていたからこそ、アウグストゥスが建設し、トラヤヌスが最大版図にまで拡大し、史上最強と異民族に恐れられていたローマ帝国の繁栄があったのだが、その一部が切断されただけで、精巧なネットワークは恐慌を来して、衰亡の足を速めたのである。
   
   世界最古の都市文明を誇ったシュメール文明の場合にも、この隆昌によって衰退すると言うケースであろう。
   創意工夫によって築き上げられた灌漑施設を前提とした農耕ゆえに各都市の領域が運河や水路などの水体系ごとに区切られ、その範囲内で余剰農産物を生み出す豊かさを手に入れたので、自分たちの都市国家だけで居心地の良い自己完結的な経済社会を享受して、その自己完結性から抜け出せず、それ以上の発展を阻害して、結局は、シュメール衰退の一因となったのである。
   また、自然環境を凌駕した筈の灌漑施設が、塩害を引き起こすなど環境破壊に加担して農業収穫量の減少と農業生産性の低下を惹起してしまったのだが、さきの都市国家の自己完結性の限界と相俟って、これらのシュメール文明を大いに隆昌させた要因こそが、皮肉にも滅亡をまねく衰退要因となったのである。
   
   さて、最近の日本の衰退の原因がどこにあるのかを考えてみると、戦後の経済社会の発展を促進し成功させて来た要因の多くが、時代の潮流について行けずに、制度疲労などの問題を引き起こして、無用の長物であるならまだしも、ブレーキとなり足枷となって来ていることが良く分かる。
   エズラ・ボーゲルが、「Japan as No.1」で称えた日本の成長と繁栄の秘密の多くが、正に、それであろう。
  
   その最たるものが、エズラ・ボーゲルが徹底的に持ち上げた官僚機構である。
   鳩山政権の仕分けチームが、目も当てられないような官僚機構の腐敗・乱脈振りを暴露しており、戦後の復興のために日本をリードして突進したあの輝くような官僚たちの使命感とプライドとモラルの高さはどこに消えてしまったのであろうかと思わせるような凋落ぶりである。
   今、独立行政法人が、槍玉に上がっているが、手本だと言うサッチャー時代のイギリスのエージェンシーは、疲弊し切ったイギリス経済社会を立て直すために、サッチャー首相が、情け容赦のない市場原理主義を貫徹して、官僚機構のリストラを実施したのであって、官僚が権力を握っていた国家社会主義的な日本で生まれた独立行政法人とは、雲泥の差がある。
   極論すれば、使命感もプライドも倫理観さえも失ってしまった官僚には、正に、湯水のように使い放題の別財布の組織が降って湧いたようなものあるから、千載一遇のチャンスとばかり、役得であり当然の余得であって、天下りや税金の無駄使いなどは序の口で、パーキンソンの法則どころか、一蓮托生の族議員に毒された自民党政府のノーコントロールを良いことに、増殖の限りを尽くして来たと言うことであろう。
   (誤解のないように付言すれば、私自身、官僚が総て悪いとは思っていないし、素晴らしい官僚を沢山知っているが、自浄作用が働かずに現状を惹起してしまった以上は、総体として、こう結論せざるを得ないと思っている。)
   少なくとも、民間企業の人間の目からから見れば、そうとしか思えない筈である。

   ところで、サッチャーが大掃除をしたイギリスの官僚組織も、ブレアの労働党政権になってから、政府主導、役人主導など、政治経済社会分野において、公共部門の介入が増大し始めて問題を惹起しつつあることを、L.エリオット&D.アトキンソンが、「市場原理主義の害毒 イギリスからの眺め」で指摘している。
   官僚たたきを進めている民主党だが、支持母体の一つに労働組合がある以上、この労働組合勢力の強い影響力が、鳩山政権にひたひたと及びつつあると言うことのようで、大前研一氏も、民主党の、既にヨーロッパにおいて死滅した筈の修正社会主義路線に警鐘を鳴らしており、注視する必要があるのではないかと思うのだが、この問題については、日を改めて展開してみたいと思っている。
   
コメント (3)
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