国立劇場5月文楽の第一部は、「祗園祭礼信仰記」の金閣寺の段と爪先鼠の段、「碁太平記白石噺」の浅草雷門の段と新吉原揚屋の段、それに、連獅子の3演目であった。
碁太平記白石噺の方は、悪代官に父を殺された姉妹が敵討ちをすると言う話だが、全盛を誇る傾城・宮城野(和生)を訪ねて、妹の奥州訛り丸出しの田舎娘おのぶが、新吉原の揚屋大黒屋で再会して、仇討ちを決意すると言うところまでだが、弟子の和生が豪華な衣装に身を包んだ花魁を遣い、文雀が、小さなおのぶを遣ってサポートするところが面白い。
雷門で、おのぶが、悪いやくざな金貸し観九郎(玉志)に騙されて売り飛ばされるのだが、運良く買ったのが宮城野の居る大黒屋の主人惣六(文司)で、奉公人として新入りして、宮城野に会って、奥州言葉の訛りで姉妹だと分かると言う趣向で、いなか娘のおのぶが、新造たちに散々からかわれるなど、準主役としては破格の活躍で、人間国宝の文雀が、実にたくみに演じ泳がせており、非常に面白い。
浄瑠璃は、大阪弁だと言うのは、真っ赤なうそで、よく分からないおのぶの奥州弁を、嶋大夫が、実に堂に入った語り口で語り続け、後半の姉妹水入らずの会話など秀逸である。
それもその筈、これは、江戸の外記座で初演された江戸発の文楽なのであるから、大分、大阪の浄瑠璃とは雰囲気が違うのも当然と言うことである。
私は、最初の「祗園祭礼信仰記」の方が面白かったし、立役の重要な舞台を務めるのは嬉しいが、あれだけ、師匠の簔助に学び続けて来たので、是非に女形を遣りたいと言っていた勘十郎が、大役である三姫のひとつである時姫を遣って会心の演技を披露したのであるから、面白くない筈がない。
主君の将軍足利義輝を殺して、義輝の母慶壽院を人質にして金閣寺に立て篭もっている松永大膳(玉也)が、慶壽院が天井画に雲龍を描くよう所望したので、機嫌取りに、雪舟の孫娘時姫とその夫狩野之助直信を捕らえており、描かなければ、時姫に夜伽をと迫る悪辣ぶりだが、信長に寝返った振りをして弟子入りした真柴久吉(玉女)に出し抜かれると言う冴えない筋書きが、この舞台のあらまし。
夫の命を救う為に、大膳の意に従うと決心した時姫が、弟子入りに志願してきた久吉と碁の対戦中に、その意を伝えるのだが、碁に夢中の大膳は中々気付かず、やっと時姫の色よい返事に、われを忘れて碁に負けると言うあたりの、如何にも人間くさい筋の展開や、爪先鼠の段で、桜の木に縛り付けられた時姫が、涙で鼠の絵を描いて鼠に助けられた雪舟の故事を思い出して、桜の花びらを掻き集めて鼠を描くと、白い鼠に変わって縄を食い切ると言う話など、サービス精神旺盛で軽妙なタッチだが、これに、盗まれた宝刀倶利伽羅丸や久吉の権謀術数が絡ませるのだから、作者も大変である。
それに、久吉が、桜の木をよじ登って三層の金閣寺の最上階まで上ると言う大ゼリのスペクタクルも呼び物で、見せる舞台になっている。
悪役の大膳を遣う玉也も、貫禄と憎憎しさを巧みに表現していて上手いが、颯爽として凛とした策士久吉を遣った玉女の風格が、控え目で気品と色香を感じさせて魅力的な時姫を紡ぎ出した勘十郎との相性の良さを感じさせて爽快であった。
碁太平記白石噺の方は、悪代官に父を殺された姉妹が敵討ちをすると言う話だが、全盛を誇る傾城・宮城野(和生)を訪ねて、妹の奥州訛り丸出しの田舎娘おのぶが、新吉原の揚屋大黒屋で再会して、仇討ちを決意すると言うところまでだが、弟子の和生が豪華な衣装に身を包んだ花魁を遣い、文雀が、小さなおのぶを遣ってサポートするところが面白い。
雷門で、おのぶが、悪いやくざな金貸し観九郎(玉志)に騙されて売り飛ばされるのだが、運良く買ったのが宮城野の居る大黒屋の主人惣六(文司)で、奉公人として新入りして、宮城野に会って、奥州言葉の訛りで姉妹だと分かると言う趣向で、いなか娘のおのぶが、新造たちに散々からかわれるなど、準主役としては破格の活躍で、人間国宝の文雀が、実にたくみに演じ泳がせており、非常に面白い。
浄瑠璃は、大阪弁だと言うのは、真っ赤なうそで、よく分からないおのぶの奥州弁を、嶋大夫が、実に堂に入った語り口で語り続け、後半の姉妹水入らずの会話など秀逸である。
それもその筈、これは、江戸の外記座で初演された江戸発の文楽なのであるから、大分、大阪の浄瑠璃とは雰囲気が違うのも当然と言うことである。
私は、最初の「祗園祭礼信仰記」の方が面白かったし、立役の重要な舞台を務めるのは嬉しいが、あれだけ、師匠の簔助に学び続けて来たので、是非に女形を遣りたいと言っていた勘十郎が、大役である三姫のひとつである時姫を遣って会心の演技を披露したのであるから、面白くない筈がない。
主君の将軍足利義輝を殺して、義輝の母慶壽院を人質にして金閣寺に立て篭もっている松永大膳(玉也)が、慶壽院が天井画に雲龍を描くよう所望したので、機嫌取りに、雪舟の孫娘時姫とその夫狩野之助直信を捕らえており、描かなければ、時姫に夜伽をと迫る悪辣ぶりだが、信長に寝返った振りをして弟子入りした真柴久吉(玉女)に出し抜かれると言う冴えない筋書きが、この舞台のあらまし。
夫の命を救う為に、大膳の意に従うと決心した時姫が、弟子入りに志願してきた久吉と碁の対戦中に、その意を伝えるのだが、碁に夢中の大膳は中々気付かず、やっと時姫の色よい返事に、われを忘れて碁に負けると言うあたりの、如何にも人間くさい筋の展開や、爪先鼠の段で、桜の木に縛り付けられた時姫が、涙で鼠の絵を描いて鼠に助けられた雪舟の故事を思い出して、桜の花びらを掻き集めて鼠を描くと、白い鼠に変わって縄を食い切ると言う話など、サービス精神旺盛で軽妙なタッチだが、これに、盗まれた宝刀倶利伽羅丸や久吉の権謀術数が絡ませるのだから、作者も大変である。
それに、久吉が、桜の木をよじ登って三層の金閣寺の最上階まで上ると言う大ゼリのスペクタクルも呼び物で、見せる舞台になっている。
悪役の大膳を遣う玉也も、貫禄と憎憎しさを巧みに表現していて上手いが、颯爽として凛とした策士久吉を遣った玉女の風格が、控え目で気品と色香を感じさせて魅力的な時姫を紡ぎ出した勘十郎との相性の良さを感じさせて爽快であった。