ジョセフ・S・ナイ教授の、どの指導者がアメリカの優位を造ったのか、20世紀における8人の大統領に焦点を当てて、アメリカの時代の構築と外交政策におけるリーダーの倫理の両面から、そのビジョンや業績など多方面から分析を加えて評価したのが、この本「大統領のリーダーシップ」。
S・ルーズベルト、W・H・タフト、W・ウイルソン、F・D・ルーズベルト、H・S・トルーマン、D・D・アイゼンハワー、R・レーガン、W・H・W・ブッシュ(父)の8人で、ニクソンが抜けているのは分かるが、ケネディやクリントンなどは、米国歴史上、アメリカの卓越性が拡大した重要な時期に指揮をとったのではなく、それ程、貢献度が高くなかったと言うことであろうか。
私にとって、身近な存在は、アイゼンハワー以降だが、一番よく知っている大統領は、アメリカに住んでいた頃のニクソン大統領で、ウォーターゲートで辞任に追い込まれた晩年であったため、日本にとっては、極めて影響があった沖縄返還や、それに、頭越しの中国訪問や金ドルの交換停止と言った2度のニクソン・ショックなどの印象は、殆ど消えていた。
さて、ナイ教授の結論は、ウイルソンやレーガンのような変革型の大統領は世界に対するアメリカの見方を変えたが、アイゼンハワーやブッシュのような取引型の大統領は、ときとしてそうした変革型の大統領よりも大きな成果を上げ、倫理的にも優れていた。と言うのが、この調査による結果だが、従来の見方と違っていて、本人も意外だと述べているのが興味深い。
アイゼンハワーは、ソ連を封じ込め、海外での恒常的なプレゼンスを維持するとしたトルーマンの決定を、堅実で持続可能なシステムに強化して、アメリカの卓越性を確固たるものに仕上げた大統領である。
中西部の慎ましい家庭の出身で、バター工場の夜勤シフトの従業員からウエストポイントに進み、 連合国遠征軍最高司令部 最高司令官、陸軍参謀総長、NATO軍最高司令官、後ケネディが再任して陸軍元帥などを歴任した最高位の軍人で、コロンビア大学の学長を経て大統領になっている。
陸軍士官学校で学ぶ機会に恵まれたことと第二次世界大戦での際立った軍歴のお蔭で、国際関係について、それまでのどの大統領よりも高い知性を具えていて、実地学習の必要性は全くなく、ナイ教授が効果的なリーダーシップに最も必要だとする状況を把握する知性(contextual intelligence)、すなわち、リーダーが変化を理解し、外の世界を解釈し、目標を設定し、戦略や戦術を整合させて新しい状況で賢明な政策を生み出すのに役立つ直観的な診断スキル、を持った大統領だと言うのである。
アイゼンハワーは、8年間の在任中に、巻き返しを唱える変革型リーダーや彼ほど有能ではない人物だったら、突入していたかも知れない朝鮮半島やベトナムでの地上戦を回避し、国内経済を支えるために海外での支出を削減し、ヨーロッパや日本との新しい同盟関係を強化した。
その期間に、アメリカの重要な同盟国を含めて、世界経済が目覚ましい成長を遂げたと言う。
また、命令ではなく穏やかな説得によって「舞台裏からリードする」特異なリーダーシップスタイルの持ち主で、外交政策について幅広い国民のコンセンサスを築くことに成功した数少ない大統領だったと言う。
このナイ教授のアイゼンハワー論を読んで気付いたのは、元々、経営学の戦略・戦術論など、組織の経営や国際舞台での活動などで根幹となる重要な理論なり哲学などの多くは、軍事学から生み出されており、そう考えれば、最高の軍人であったアイゼンハワーが傑出しているのは、理の当然であったのではないかと感じている。
それに、風雲急を告げる激動期のヨーロッパでの貴重な経験は、何よりもまして超然たる覇権国家アメリカのトップリーダーとしの最高級の資格ではなかったかと思っている。
尤も、同じ軍人でも、HBSのMBAで会計士であった、ヴェトナム戦争でアメリカを泥沼に追い込んだマクナマラ国防長官との差は歴然としているのだが、ナイ教授は、
ブッシュ大統領も、著名な退役軍人であり、アイゼンハワーと同じく、国際関係についてもっとも経験豊かな大統領の一人で、そのお蔭で卓越した状況把握の知性を具えていて、同じように、有能な部下を選び、効果的な国家安全保障プロセスを築くと言う重要な能力を具えていたと高く評価している。
さて、ブッシュは、クリントンに経済論争で負けて、たった一期ではあったが、その間に、ベルリンの壁の崩壊、東西ドイツの統一、ソ連の崩壊と言う、フクシマの説く歴史の終わりとも言うべきエポックメイキングな歴史上大変な時代に舵取りをした稀有な大統領であった。
1990年、1年足らずのうちに2つのドイツ国家を、NATOに残留したまま再統一させることに成功し、翌1991年、ソ連の平和的解体を、並外れた手腕で実現した。と言う。
特に、ドイツ統一については、アドバイザーや支持者の助言を無視して、ゴルバチョフとの関係を巧みに対処しながら、友人のコールの統一への熱い思いや努力に共感して支援をすると言う賭けをして、この歴史的な変革を実現したのである。
私自身、この時代には、ロンドンで仕事をしていて、激動期のヨーロッパを歩き回っていたので、国際情勢には極めて敏感になっていた。
ブッシュやコールなどの政治的な動きは知る由もなかったのだが、ベルリンの壁の崩壊前、最中、崩壊後と、何度か、東西ドイツと東西ベルリンを訪れており、当時を思い出しながら、この本を読んでいた。
アイゼンハワーとブッシュで、長くなってしまったが、この本では、真珠湾攻撃を利用して第二次世界大戦参加に国民を誘導したルーズベルト、ヒロシマ長崎に原爆を落としたトルーマンの倫理観、沖縄返還や日本の再軍備等々、日本にとって興味深いトピックスも語られている。
また、アメリカの卓越性が世界にとって良かったのか悪かったのかと言った問題に踏み込むなど、切っ先鋭いナイ教授の縦横無尽な理論展開が面白いし、超大国アメリカの大統領の目を通した20世紀の世界史を展望しているようで、読んでいて、非常に楽しい。
ナイ教授の専門ではない経済的な観点から掘り下げて行くと、もう少し違ったアメリカの大統領のリーダーシップ論になるのではないかと思うのだが、
最後に、21世紀に入って、ブッシュ大統領やオバマ大統領のリーダーシップ論をも展開していて、これも、参考になって興味深い。
S・ルーズベルト、W・H・タフト、W・ウイルソン、F・D・ルーズベルト、H・S・トルーマン、D・D・アイゼンハワー、R・レーガン、W・H・W・ブッシュ(父)の8人で、ニクソンが抜けているのは分かるが、ケネディやクリントンなどは、米国歴史上、アメリカの卓越性が拡大した重要な時期に指揮をとったのではなく、それ程、貢献度が高くなかったと言うことであろうか。
私にとって、身近な存在は、アイゼンハワー以降だが、一番よく知っている大統領は、アメリカに住んでいた頃のニクソン大統領で、ウォーターゲートで辞任に追い込まれた晩年であったため、日本にとっては、極めて影響があった沖縄返還や、それに、頭越しの中国訪問や金ドルの交換停止と言った2度のニクソン・ショックなどの印象は、殆ど消えていた。
さて、ナイ教授の結論は、ウイルソンやレーガンのような変革型の大統領は世界に対するアメリカの見方を変えたが、アイゼンハワーやブッシュのような取引型の大統領は、ときとしてそうした変革型の大統領よりも大きな成果を上げ、倫理的にも優れていた。と言うのが、この調査による結果だが、従来の見方と違っていて、本人も意外だと述べているのが興味深い。
アイゼンハワーは、ソ連を封じ込め、海外での恒常的なプレゼンスを維持するとしたトルーマンの決定を、堅実で持続可能なシステムに強化して、アメリカの卓越性を確固たるものに仕上げた大統領である。
中西部の慎ましい家庭の出身で、バター工場の夜勤シフトの従業員からウエストポイントに進み、 連合国遠征軍最高司令部 最高司令官、陸軍参謀総長、NATO軍最高司令官、後ケネディが再任して陸軍元帥などを歴任した最高位の軍人で、コロンビア大学の学長を経て大統領になっている。
陸軍士官学校で学ぶ機会に恵まれたことと第二次世界大戦での際立った軍歴のお蔭で、国際関係について、それまでのどの大統領よりも高い知性を具えていて、実地学習の必要性は全くなく、ナイ教授が効果的なリーダーシップに最も必要だとする状況を把握する知性(contextual intelligence)、すなわち、リーダーが変化を理解し、外の世界を解釈し、目標を設定し、戦略や戦術を整合させて新しい状況で賢明な政策を生み出すのに役立つ直観的な診断スキル、を持った大統領だと言うのである。
アイゼンハワーは、8年間の在任中に、巻き返しを唱える変革型リーダーや彼ほど有能ではない人物だったら、突入していたかも知れない朝鮮半島やベトナムでの地上戦を回避し、国内経済を支えるために海外での支出を削減し、ヨーロッパや日本との新しい同盟関係を強化した。
その期間に、アメリカの重要な同盟国を含めて、世界経済が目覚ましい成長を遂げたと言う。
また、命令ではなく穏やかな説得によって「舞台裏からリードする」特異なリーダーシップスタイルの持ち主で、外交政策について幅広い国民のコンセンサスを築くことに成功した数少ない大統領だったと言う。
このナイ教授のアイゼンハワー論を読んで気付いたのは、元々、経営学の戦略・戦術論など、組織の経営や国際舞台での活動などで根幹となる重要な理論なり哲学などの多くは、軍事学から生み出されており、そう考えれば、最高の軍人であったアイゼンハワーが傑出しているのは、理の当然であったのではないかと感じている。
それに、風雲急を告げる激動期のヨーロッパでの貴重な経験は、何よりもまして超然たる覇権国家アメリカのトップリーダーとしの最高級の資格ではなかったかと思っている。
尤も、同じ軍人でも、HBSのMBAで会計士であった、ヴェトナム戦争でアメリカを泥沼に追い込んだマクナマラ国防長官との差は歴然としているのだが、ナイ教授は、
ブッシュ大統領も、著名な退役軍人であり、アイゼンハワーと同じく、国際関係についてもっとも経験豊かな大統領の一人で、そのお蔭で卓越した状況把握の知性を具えていて、同じように、有能な部下を選び、効果的な国家安全保障プロセスを築くと言う重要な能力を具えていたと高く評価している。
さて、ブッシュは、クリントンに経済論争で負けて、たった一期ではあったが、その間に、ベルリンの壁の崩壊、東西ドイツの統一、ソ連の崩壊と言う、フクシマの説く歴史の終わりとも言うべきエポックメイキングな歴史上大変な時代に舵取りをした稀有な大統領であった。
1990年、1年足らずのうちに2つのドイツ国家を、NATOに残留したまま再統一させることに成功し、翌1991年、ソ連の平和的解体を、並外れた手腕で実現した。と言う。
特に、ドイツ統一については、アドバイザーや支持者の助言を無視して、ゴルバチョフとの関係を巧みに対処しながら、友人のコールの統一への熱い思いや努力に共感して支援をすると言う賭けをして、この歴史的な変革を実現したのである。
私自身、この時代には、ロンドンで仕事をしていて、激動期のヨーロッパを歩き回っていたので、国際情勢には極めて敏感になっていた。
ブッシュやコールなどの政治的な動きは知る由もなかったのだが、ベルリンの壁の崩壊前、最中、崩壊後と、何度か、東西ドイツと東西ベルリンを訪れており、当時を思い出しながら、この本を読んでいた。
アイゼンハワーとブッシュで、長くなってしまったが、この本では、真珠湾攻撃を利用して第二次世界大戦参加に国民を誘導したルーズベルト、ヒロシマ長崎に原爆を落としたトルーマンの倫理観、沖縄返還や日本の再軍備等々、日本にとって興味深いトピックスも語られている。
また、アメリカの卓越性が世界にとって良かったのか悪かったのかと言った問題に踏み込むなど、切っ先鋭いナイ教授の縦横無尽な理論展開が面白いし、超大国アメリカの大統領の目を通した20世紀の世界史を展望しているようで、読んでいて、非常に楽しい。
ナイ教授の専門ではない経済的な観点から掘り下げて行くと、もう少し違ったアメリカの大統領のリーダーシップ論になるのではないかと思うのだが、
最後に、21世紀に入って、ブッシュ大統領やオバマ大統領のリーダーシップ論をも展開していて、これも、参考になって興味深い。