世の中には「楽しみは後にとっておく」という表現がある一方、「鉄は熱いうちに打て」という表現もあります。これらを今回のベトナム鉄道訪問に当てはめたときに最も扱いに迷うのは、出発前から最大のお楽しみとして照準を定めていた標準軌路線・ハロン(下龍)線の満鉄客車に関するレポートであります。果たして、今回の連載最大の見どころとして後回しにすべきか、それとも興奮の熱い鼻息が冷めないうちに文字にしておくのが良いのか……まぁ何のかの言って標準軌つながりということで、先にアップしておきましょう。
前回の記事でも触れましたが、仏領時代に骨格が固まったベトナムの鉄道は、基本的に大陸部東南アジアのスタンダードとも言えるメーターゲージで敷設されているのに対し、戦後中国との国境の街であるドンダン(同登。中国側は憑祥)から、中国国内と同じ標準軌のレールが「社会主義的友誼」のためにザーラムまで延びています。また、ハノイから真北にあたる鉄鉱石の産地・タイグエン(太原)省で製鉄業が興され、その製品を海までダイレクトに輸送して深水港からスムーズに搬出する目的で(たぶん)、タイグエンから南東に向かいケップ (ハノイ~ドンダン間の中間点。漢字は分からず ^^;) を経て港湾都市ハロン(下龍)に至る標準軌のレールが、恐らく1960年代までに中国の援助で敷設されています。要するに、ケップを結節点として×字状に標準軌が敷かれているとみれば良いでしょう。
しかし、タイグエンからの鉄製品輸送は、1990年代からの経済発展により道路交通が発展したためか、あるいはベトナムの他の地域に広く持って行くためにはハノイの北・ドンアイン(東英)から真っ直ぐ北上してタイグエンに至る鉄道を利用する方が手っ取り早いためか、タイグエン~ケップ間の標準軌は放置されて久しいらしく……ケップ~ハロン間の路線(日本の鉄道趣味者からはハロン線と通称されている模様)のみ、ハノイ~ドンダン線から直通する列車が細々と走っているのが現状です。具体的には、ハノイの北東・ザーラムの隣駅であるイェンビエン(安園)から毎日1往復の混合列車がケップを経由してハロンまで運行されています。
この他、ハロン駅の北東には深水港への引き込み線があり、かつて(恐らくタイグエン~ケップ間が生きていた頃)は複数の貨物列車が設定されて入換用の標準軌SLが忙しく走り回っていたそうですが、そんな時代は遠く去り……終点ハロンへの列車は基本的に毎日1往復! (滝汗) 一応、大規模コンテナ港としてのハロン港の整備充実を図り、イェンビエンからコンテナ列車を走らせる計画もあるようですが、目下見かけないのが実情……(そもそもハノイ~ハロン間の直線距離が150km程度しかなく、工業団地もハノイ~ハイフォン周辺に集中しているため、わざわざイェンビエン駅でトレーラーから列車に積み替えるメリットがなさそうな気も)。
一方、ハロンは「海の桂林」との誉れ高い一大景勝地としての顔を持ち、全世界から膨大な数の観光客を集めつつあります。そこで、ハノイ~ハロン間の幹線道路にはそれこそ豪華観光バスがひしめいていますが、その観光客の一部を列車で輸送して一儲け……と目論んだテーハンミングッ(どどんがどんどん。爆)の観光業者がハングッ政府・ソウルメトロやベトナム国鉄を巻き込んで、ソウルメトロ2号線の4扉車を改造した超バッタもの観光列車を3年前に走らせたものの、誰も乗らずに1ヶ月で運休に追い込まれたという、如何にも思い込みで突進しやすいナムチョソンらしい顛末につきましては、前にも当ブログで触れました通りです(笑)。そこで実際に現地の道路状況を見てみるにつけ、渋滞さえなければホテルtoホテルの豪華貸切バスで3時間半~4時間で着くところを、ザーラム駅及び草深いハロン駅(その片鱗は今回の画像でも十分お楽しみ頂けるでしょう……)での乗降も含めて半日以上の行程にしてしまっては、乗りたいと思うのは奇特な鉄ヲタ観光客ぐらいのものでしょうに……という感想が沸々と (汗)。
勿論「時間を急ぐよりも豪華な列車でゆったりと」という発想は、本朝の一部豪華列車の人気ぶりにみられるところであり、あるいは打倒イルボンを国体とする異国ですら最近気合いの入った豪華列車「ヘラン」を走らせているところですが、「おくれたベトナムならこの程度の車両でケンチャナヨ」と言わんばかりのバッタものぶりでは、観光客受け容れホストであるベトナムの観光業者も「あちゃー」と顔面蒼白になったに違いありません。現在ベトナムでは、右も左も現代ラッキー金星大宇起亜。そしてノイバイ空港では「ピ」の追っかけギャルに遭遇して面食らったものですが、いずれベトナムの人々も、ハロン・エクスプレスに象徴されるテーハンミングッのケンチャナヨな本質に気づく日も遠くないだろう……と思いたいものです(日本は折角重要なODAインフラで圧倒的にベトナムに貢献しているというのに、その結果好転した経済環境のうまみを相当ナムチョソンに持って行かれている印象があり、不甲斐ない観が……。ヘッポコなパッカー上がりの鉄ヲタながら、アジア市場における同胞ビジネスマンの皆様の奮起を期待したいものです)。
しまった、本題に入る前に延々とハロン線概論で許容文字数を満たしつつある……(^^;)。というわけで、ハロン駅で最高に貴重な満鉄車両群に出会うまでの激闘の顛末につきましては次回以降に譲ることにしまして、とりあえずヒヤヒヤの連続の末にたどり着いたハロン駅で出迎えてくれた満鉄荷物車に感涙しつつ激写したカットをアップしておきます (^_^;;)。