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ミステリ感想-『開かせていただき光栄です』皆川博子

2013年10月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
18世紀ロンドン。解剖学が最先端でありつつも偏見にさらされた時代。
外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。
戸惑うダニエルと弟子たちに盲目の治安判事サー・ジョンは捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年のたどった悲劇の運命があった。
2012年本格ミステリ大賞受賞作。文庫版には前日譚を描いた短編を併録。

~感想~
皆川御大、御年80にして代表作の一つと聞き、遅ればせながら初めて著作を読んだ。
18世紀、ロンドン、解剖学とさほど興味も知識もない背景ながら、読み進めるうちにおおよその基礎知識を与え、物語に引きつける描写の冴えはさすが。
登場人物も少なくないし、それぞれ派手な個性も持たせていないのに書き分けが抜群で、英語名を読み慣れていない身でも全く混乱しない。
事件も冒頭から謎の死体が次々と飛び出すホットスタートで、田舎上がりの野心家の少年をもう一人の主人公とした話が本編とつながっていくのも見事。
だが盲目の判事の鋭い推理と豊富な伏線、二転三転する事件の様相も目を離せず、細緻に編まれてはいるものの、年間ベスト級と呼べるほどの作品だろうかと疑問に思っていたところ。自分の目を疑うどんでん返しが待ち受けていた。
それまで見えていた構図は一気に反転し、物語自体が全く違う色を見せる。しかもこの時代、この事件でしか成し得ない動機と結末まで用意されているとは恐れいった。
きっと5億人くらいの読者が同じことを言っただろうが、やはり言いたい。
読ませていただき光栄です。


13.10.24
評価:★★★★ 8
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