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ミステリ感想-『BLUE』葉真中顕

2019年07月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
年の瀬に起こった一家殺害事件。自殺とも取れる形で死亡した容疑者の次女はひきこもりで、昭和で時の止まったような部屋で何年も暮らしていたと見られるが、謎の指紋と毛髪が現場には残っており、部屋には外国の湖の写真が飾られていた。そして事件を追う刑事に思いがけない情報がもたらされる。


~感想~
社会派と本格の融合で鳴らす作者が、平成史を丸ごと振り返りつつ、実在の事件をモチーフにした謎を描く。こんなの面白いに決まっているではないか。
平成そのものをテーマにした作品はミステリ界でもそのうち出るだろうと思っていたが、なんと平成最後の日(4月30日)に本作はリリースされた。早い。早いし用意周到すぎる。早すぎて新元号に対応できず令和という言葉すら(たぶん)出てこないが、平成の事件・出来事を多少の強引さをものともせず山ほど絡ませながら、平成最初の日から最後の日まで駆け抜けたある一人の人物を中心に描いた物語の構成も見事。
ミステリ的には第Ⅰ部のラストで明かされたある意外な事実がピークで、そこからはただ終わりに向けて収束していくだけなのだが、概要だけ聞いて感じた期待値には十二分に応えており、誰しもが満足できるだろう。
企画が企画だけに、平成を丸ごと体験・記憶している中年読者のほうが楽しめることは間違いないが、若い読者にとっても、知らない平成初期を味わえる、またとない良作である。


19.7.10
評価:★★★★ 8
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