拉致被害者家族会は28日に、元副代表であり事務局長として存在感のあった、拉致被害者の蓮池薫さんの兄の蓮池透氏を、事実上除名した。蓮池透氏は、被害者が帰国した前後には事務局長としてマスコミに間断なく顔を出していた。発言内容も相当しっかりしたものであった。
被害者家族会は事実上除名した理由を、会は北朝鮮に対する制裁を強めることを重視しているが、蓮本透氏がこれに反したというのである。北朝鮮への制裁は、今が正念場だというのである。
蓮本透氏は数年前から著書などで、拉致問題が特定の右翼団体などに大きな支持を得て活動することへの疑問を投げかけていた。また、経済制裁だけでは返って、北朝鮮のような国家を頑なにするだけで、逆効果だというのである。
家族会が、今が正念場だというのは、経済制裁による効果が見せ始めてきたことと、昨年末のデノミの失敗などによる経済破綻のことを指しているものと思われる。更に、金正日の健康問題も深刻なようである。
蓮本透氏は、「私を退会させることで、拉致問題の進展が望めるなら甘んじて受け入れる」と、発言している。蓮本透氏に近い発言をしていたのが、大韓航空機爆破事件の実行犯である金賢姫である。「北朝鮮のメンツも保たれなければ、事件は解決されない」と発言していた。
家族会は急速に高齢化が進んでいる。彼等の焦りも解らなくはないが、経済制裁は指導者には効果がないのも事実である。経済制裁は、下層の一般国民にとって深刻な状況を生むのである。何時の時代も、為政者は何食わぬ顔で高いびきである。又、蓮池透さんが苦言を呈しているように、反共産主義へのナショナリズムに利用される側面は拭い切れていない。
家族会が多様な意見を受け容れることができなかったのは、こうした右側からの存在を物語っている。事実阿倍晋三などの右翼議員が極めて熱心に活動していた。彼等の目的は、拉致被害者の救出に名を借り、北朝鮮を利用した反共の政治活動である。
北朝鮮の最大の問題は、北朝鮮国民の貧困問題であり、食料問題であり、人権問題である。金体制がいつまで続くかは解らないが、救われることにない3000万の人々の救済ではないだろうか。拉致問題をイデオロギーの狭いところに閉じこめては、この問題は解決されない。被害者の会の冷静な判断をなくさせたのは、焦りだけではないと思われる。