詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池田清子「私の一枚」、青柳俊哉「秋に下る」、徳永孝「お母さん Yさん」

2021-10-31 09:18:15 | 現代詩講座

池田清子「私の一枚」、青柳俊哉「秋に下る」、徳永孝「お母さん Yさん」(2021年10月1 8 日、朝日カルチャーセンター福岡)

 カルチャー講座受講生の作品。

私の一枚  池田清子

『青いネクタイをした少女』モヂリアニ
中学生の時、雑誌に付録でついていた
「世界の名画」の中の一枚

こころが ひかれた
今も ひかれる

もし 大きな目に瞳が描かれていたなら
もし 首をかしげてなかったら
もし 長い顔でなかったら
もし なで肩でなかったら
もし 暗い色調でなかったら
私はこの絵を好きになっただろうか

否、命が一つであるように
一枚の絵もまた一つ

複製の仕方によって
グレー系は寂しげ、茶が多いと生気を感じる
原画を観てみたい

もし モディリアーニが私を描いてくれるなら
どんなデフォルメになるのだろう
私の奥の奥にあるものが瞳のない目に現れる
観てみたい

 この作品は、講座で感想を語り合った後、その感想を参考にして推敲されたもの。前半は同じだが、後半はずいぶんとちがった形だった。
 当初の作品に対して「前半は詩の形式になっているが、後半は内容的には豊かだけれど散文形式になってい違和感がある。後半は散文的なところを削除した方がいいのではないか」という感想だった。具体的には、「後半の謙遜した表現は、そこまで書かなくてもいいのでは」という意見。「私の奥の奥にあるものが瞳のない目に現れる、という一行はとても好きなので、それがもっと目立つといいなあ」という意見も出た。
 受講生から出た意見に、私はつけくわえることがない。
 余分な行を削ることで、ことばの動きがまとまったと思う。
 「モヂリアニ」「モディリアーニ」の表記の使い分けは、昔(池田が中学生のころ)は「モヂリアニ」と表記されていたことを反映したもの。これは、池田が説明した。こまかな表記の違いで「時代」をあらわしている。

秋に下る  青柳俊哉

雪のふる朝 微塵子の秋に下る
空の 柔らかいオレンジ色の球体をいくつも過ぎて
ヒグラシのなく水域へ行く 光を惜しむ
黒い藻の林に 沈没した船がよりかかる
より小さなものたちの 結晶して明るむ部屋  
その恋心のような 生の痕跡を指で辿ろうか
船首の十字架の 冷たい葡萄の石を口に含もうか 
わたしたちは眼の心臓の 純真な太陽に見まもられている 
それが 天使の領巾を上下に閃かして泳ぐので
命の水車が金貨のようにめぐるのだ
雪の光を秋にあつめて 石英の米粒のように
この海を 梨の実の純白に変えようか

 受講生からの感想。「ロマンチックで美しい。複数のカテゴリーの違ったことばの組み合わせがある。その組み合わせ方に意外性がある。心象風景を感じさせる」「沈没船はイメージできるが、よくわからない。一行目からわからない」「現実とは違う影の美しさ。生き物の気配がする」。
 私も一行目の「微塵子」でつまずいた。青柳は「微塵子は体が透き通っているその透明感を積み重ねるようにしてイメージを重ねた」ということだった。
 「結晶して明るむ部屋」「眼の心臓」「この海を 梨の実の純白に変えようか」ということばから透明感がつたわる、という声が出た。
 私は最終行も好きだが、「船首の十字架の 冷たい葡萄の石を口に含もうか」という一行がとても好きだ。これは「口に含む」という肉体の動きが鮮明だからである。その直前にも「指で辿る」という動詞がある。私は、そういうことばを頼りにしてことばを読むが、青柳は肉体よりも精神の自由な動きを優先させる。それが最終行に結晶していると感じた。

お母さん Yさん  徳永孝


お父さんは夜勤に出かけ
弟たちが寝いったころ
つくろい物をしながら
お母さんが話しかける
あれやこれや
ぼくにはよく分からない話やぐちも

ぼくはお母さんをひとりじめできたようで
うれしかった


お店が閉まりみんなが帰った後
片付を終えたYさんが
ゆっくりタバコをふかしながら話しかける
ね、そうやろ?
(よく分からんけど)うん
こんな事 他の人には言えやしない
Tちゃんも話しちゃダメよ
うんわかってる

二人だけの時間

 「分からないことを自分に話してくれるお母さんと、Yさん。分からないことを話してくれることがうれしい。その人間関係、その時間を大事にしている。おもしろい発想」「お母さんと過ごした時間をなつかしく思い出しているが、お母さんもうれしかっただろうなあと想像した。それがYさんと重なる」「私には兄がいるが、昔、兄はこんなふうに感じていたんだろうかと兄の気持ちを思った」
 昔と今の対比、分からないことばを中心にした動き。
 私が注目したのは「ひとりじめ」が「二人だけの時間」と言いなおされていること。「ひとり」が「二人」にかわっている。たぶん、これが、人間が成長するというとだと思う。子どものときは自分のことしか考えられない。だから「ひとりじめ」。ところが大人になると相手のこともわかる。わからないけれど「うん」と相槌を打つことも覚える。その瞬間「二人」という意識が強くなる。その変化がしっかりと表現されている。
 そのことばが、たとえば「お母さんもうれしかっただろうなあと想像した」という受講生の感想を引き出している。


 

 

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