詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

青柳俊哉「石」、池田清子「ピカソ」、徳永孝「カーテン」

2021-10-16 17:25:17 | 現代詩講座

青柳俊哉「石」、池田清子「ピカソ」、徳永孝「カーテン」(2021年10月04日、朝日カルチャーセンター福岡)

 カルチャー講座受講生の作品。

ピカソ       池田清子

「本作品は 実在する人物も登場するが
すべては自由に脚色されたフィクションである
アーティストや遺族及び関係団体と本作品は無関係である」と
映画「モディリアーニ 真実の愛」
の タイトルの後にテロップが流れる

しかし 私は
映画の中の真実を信じてしまうのだ
すでに成功し富も名声もあるピカソが
まだ売れないモディリアーニの才能をうらやみ、やっかみ
彼を挑発して落としめプライドを傷つけるのだ

ピカソが嫌いになってしまった

老いた 神 ルノワールの所へ連れて行くのは
ピカソなりの叱咤だったかもしれない
モディリアーニが亡くなった後には
人間らしい表情も見せる

しかし、
ヒールのピカソ役があまりにもうまくて
フィクションだとわかっていても
私は、やっぱり今でも ピカソが嫌いだ

 書き出しの「本作品は……」というのは、映画の最初に流れるテロップ。こういう「他人のことば」が詩のなかに必要か。意見が分かれるかもしれない。池田のこの作品の場合は、必要だろう。二連目に書いてあるように、池田は「映画の中の真実を信じてしまうのだ」。
 この「真実」ということばのつかい方は、かなり微妙である。映画に描かれていることが、池田にとって「真実」になった、ということだ。
 ひとはどんな「事実」も「事実」そのものとして客観的に受け止めるわけではない。「事実」を「真実」として受け止めるか、「虚偽」として排除するかは、ひとそれぞれによって違う。だからこそ、映画にしてもさまざまな描き方が可能ということだろう。
 池田は、私が「虚偽」と呼んだものを「フィクション」ということばで語っている。最初のテロップにも登場することばだ。「事実」を真実にかえる力が「フィクション」である。
 そうであるなら、その「フィクション」の力を詩に活用する工夫もしてみるのも、ことばの世界を広げることになるかもしれない。

カーテン  徳永孝

カーテンのくまさん
ダンスダンスダンス
1ぴき 2ひき
3・4 5ひき
6ぴき 7ひき
8ぴき 9ひき

10ぴきのくまさん
みんなでダンス
ダンスダンスダンス

えーっと次は何びき目だっけ?
そう!
11 ひき 12 ひき
13ぴき 14ひき
15 16 17ひき
18ひき 19 ひき
もう数えるのあきた

たくさんのくまさん
みんなでダンス
ダンスダンスダンス

 徳永の詩では「事実」と「フィクション」はどういう関係にある。クマの描かれたカーテン。何匹もいる。それを子どもたちが数えている。数えることを覚え始めたころの子どもである。十まではわりと簡単。しかし、その先は? すこしむずかしく感じる子どももいる。そういう子は、どうするか。必死になってついていくということがある。また「もうあきた」と数えることをやめてしまう子もいる。もちろんほんとうにあきた子もいる。その「事実」をどうやって「フィクション」で整理し、わかりやすくするか。同時に楽しい感じにことばを動かすか。
 単純に「1ぴき 2ひき」とつづけていくだけではなく「3・4 5ひき」と「ひき」を省略したり、「11 ひき 12 ひき」のように数字と「ひき」のあいだに「あき」をつけることで読み方(数え方)のリズムに変化を出している。これは「事実」かもしれないし、「脚色(フィクション)」かもしれない。しかし、「フィクション」であることが気にならない「フィクション」である。
 「脚色」によって、現実がより鮮やかになっている。「脚色」することで楽しさが倍増していると言える。

石  青柳俊哉

冬ざれの野に隕石がふる
かくされた世界の符号のように
石の階段がうねるように上り 最上部の塔のうえの
時計がとまる 針先は円形の文字盤の上方 
水のように朱色がながれる空を指す
ひそかにひらく雲間の月かげから 
枯葉や蝶の羽が石の頬や手にふりかかる 
それらを身に敷く石にとって 生はすべてが
落下するこの世界で 凍てついていくいとしいものの 
たえまなく上昇を強いるものへの
円的な運動である 氷結する針先の
肌触り 閉じていく石の温もり

 青柳の作品は、ことばによる「フィクション」のなかにこそ、「事実の動き=真実」があるということを目指して書かれている。「かくされた世界」ということばが出てくるが、ことばは「かくされた」ものを明らかにする。そのかくされたものというのは、ことばにしないかぎり「見えない」(存在しない)もののことである。たとえば意識。精神。だれにでも意識、精神はあるが、それは「ことば」にして語られないかぎり、他人には存在しているかどうかわからない。他人には伝わらない。
 高みから落ちてきた隕石。それは落ちてきたことを知らない人間には石にしかすぎない。しかし、隕石に「意識」があるとすれば、たとえばどんな「意識」だろう。「落下してきた」ものは再び「飛翔する」ことを夢見ているかもしれない。落下し、上昇する。それを繰り返すと「往復」ではなく「円環」になるときがあるかもしれない。時計のように、何もかもが「円環」する。そういう思想を「フィクション」を利用しながら語っていると読んでみるのはどうだろうか。

 

 

 

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田原編『百代の俳句』

2021-10-16 11:18:44 | 詩集

 

田原編『百代の俳句』(ポエムピース、2021年10月25日発行)

 田原編『百代の俳句』は、400年の歴史のなかから131人、131句を選んでいる。私は俳句をほとんど読まない。田原は、どんなふうに俳句を読んでいるのか。その句を選んだ理由は何なのか、ということを期待して本を開いたが、ずらりと句が並んでいるだけである。個々の句に対する個々の感想がない。うーん、これは困った。
 私の好きな句が選ばれているかな、ということをちらちらとページをめくって確かめる感じで読んでしまう。こんな読み方でいいかどうか、わからない。
 たとえば、寺山修司では「わが夏帽どこまで転べども故郷」。あ、あってよかった、という感じ。でも、この句が寺山の句の代表作といえるかどうか、私にはわからない。ただ帰省したときの青年の(青春時代の)「故郷」に対する思い入れの過剰さが、私は好きなのだ。青春を生きている人間にとって「故郷」はまだ「故郷」になりきれていない。「故郷」と書きながら「故郷」を夢見ている。それが「どこまで転べども」に暗示されている。単に風に飛ばされた帽子がころころころ転がっていく、ということを描写しているのだが「転ぶ」という動詞の選択、「どこまで」という永遠につながることばの選択に、私は寺山の「虚構の力」を感じるのである。
 田中裕明の「みづうみのみなとのなつのみじかけれ」。山の湖。夏休みだけボートがにぎわう。そういう「港」。この港は、いわば比喩である。それが「み」の頭韻の繰り返しのなかでさっと描かれる。それはまるで、思い出が消えながらあらわれてくるという不思議な印象を引き起こす。
 石牟礼道子の句が131人のなにか選ばれているのもうれしかった。「死におくれ死におくれして彼岸花」。「死におくれ」のくりかえしが、人間のいのちの強さと怨念をつたえている。人は死にたいわけではない。生きていたい。「死におくれる」ということは、言いなおせば、人間にとっていいこと(長寿)を意味するはずである。しかし、ここでの「死におくれ」は単なる長寿をあらわすわけではない。他の人は死んでしまった。ひとり死に、またひとり死ぬ。それも苦しみながら死んでいく。それを見送る無念さ。「彼岸花」は私が子どものころは「死の花」と忌み嫌われた。さて、この彼岸花は、そういう「不吉」の象徴なのか。それとも生きている人間の怨念の象徴なのか。たぶん「不吉な花」という意味を懸命に転換しようとする「意図」がこの句のなかを貫いている。そういうことを、私は感じた。

 田原は「世界と心を凝縮する芸術」という「解説」のような文章を最後に書いている。そこに、こういうことばがある。

言語学では、各単語が自立して構成されるタイプの「孤立型」に分類される中国語にたいして、日本語は、助詞や語形変化によって各単語が結びつき合う「膠着語」に分類されている。日本語には、情緒が心にまとわりついて離れがたいさまをさす「情緒纏綿」という趣深い熟語があるが、まさしく「纏綿」すなわちまとわりつく表現は、その膠着語特有の融通無碍な性質に通じ、俳句が他言語に向けてひらかれる要因になっているのではないか、というのが私の持論である。

 うーむ。そういうことを私は考えたことがなかったなあ。私の考えでは、どの国のことばでもある程度、コンビネーションが決まっている。「わが夏帽どこまで転べども故郷」。これは帽子は風に飛ばされる。地面に落ちる。そして転がる、ということを描いているが、それは「帽子とは被るものだが、ときには落ちる」という意味が含まれる。「帽子=落ちる」は「意味の定型(決まりきったコンビネーション)」である。「被る」ではなく「落ちる」方に目を向けて寺山が句をつくっているのは、青春の敗北(落ちるに通じる)がそのまま「情緒」を呼び寄せるからである。帽子を被り直して赤門から入る、ではまったく違う「味」になる。寺山は「落ちる」方を好む。そして、「帽子が落ちる」のはたいていの場合「風に飛ばされる」のである。その風が「落ちた帽子をさらに遠くへ転がす」。「転ぶ/転がる」には「風」が含まれているので、その帽子がわざと転がしたものではなく、風にとばされたもの、一瞬のスキをつかれるようにして発生したできごとだとわかる。さらに風には、どこまでも吹いていくというようなイメージがある。はてしなさ。「故郷」は小さな場所である。しかし、それは「思い出す」とき「はてしない」ものにかわる。転がる帽子を追いかけることで、「故郷」をはてしないものに寺山は変えている。このコンビネーションの巧みさ(組み合わせの妙)が寺山の句の持ち味だと私は思う。こういうことが可能なのは「膠着語の融通無碍な性質」だからなのか。田原の定義の仕方には独特のものがあり、それがとてもおもしろい、と感じた。
 私はどこの国のことばでも「動詞」を基本に読んでいけば(理解していけば)、それぞれの国の人の考え方に通じると思っている。「孤立語」「膠着語」の区別を考えたことがなかった。

 

 

 

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