詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

松井ひろか『十六歳、未明の接岸』

2021-10-20 10:41:41 | 詩集

松井ひろか『十六歳、未明の接岸』(七月堂、2021年09月25日発行)

 松井ひろか『十六歳、未明の接岸』。どの詩を引用しても、何か、こころが苦しくなるところがある。音に切羽詰まったリズムがある。私はこういう切羽詰まった感じは、あるところまでは近づけるが、最後は身構えてしまう。
 「ひかりを掬う麦」はゴッホの「麦畑」を見たあとの印象。

フィンセント・ファン・ゴッホさん
うず巻く闇を抱えるあなたに
一点の暗がりもない日々があった
生涯のうちの七日間
たしかに大地を踏んでいた
芸術家としての幸福を
あなたはきちんと味わって
畢生を全うされたんですね
(そのことが後世のひとをどんなに幸せにすることか!)

 私が「切羽詰まった」という印象を受けるのは、「うず巻く」の「うず」、「一点の暗がり」の「一点」、「たしかに」、「きちんと」ということばである。「強調」がある。強調は緊張につながる。その緊張が最終的に「畢生」という非常に意味が限定されたことばに到達する。日常的にはめったにつかわないことば(私はつかったことがない)につながっていく。それだけではなく、それに「全う」ということばが追い打ちをかける。
 松井は肉体全体をつかってゴッホの「麦畑」と向き合っている。それは松井自身をゴッホに重ね合わせようとする行為、ゴッホと一体になろうとする動きに感じられる。
 何のために?
 ここが、また、問題。私が思わず身構え、身を引いてしまうところ。

(そのことが後世のひとをどんなに幸せにすることか!)

 松井のなかに訪れた、ゴッホとの一体感。ゴッホの「生涯のうちの七日間」に匹敵するような幸福感。何かを発見した喜び。それはきっと「後世のひとを幸せにする」。松井は、この瞬間、そう信じている。これは「絶対的な正しさ」を持っている。言いなおすと、こういう至福に対しては、誰も口をはさめない。それは決定的に個人的なもの、松井だけのものであり、松井だけのものであることによってのみ他人に共有されるものだからだ。私には、まだ、そういうものを受け止めるだけの力がない、と思い、私は身構えながら、そっと退く。そういうことしかできない。
 「母を産む」には、こういう二行がある。

お母さん、
私が娘でしあわせでしたか

 「麦畑」に出てきた「幸せ」は、この問いと結びついている。「麦畑」を見て苦悩するひとがいるかもしれない。それはそれで苦悩することができるという「幸せ」なのである。そうであるなら、「お母さん」も「幸せ」であると言えるし、この詩を読む私も「幸せ」と言える日が来るだろう。
 ただ、私は「母親」ではなく一読者にすぎないので、「論理的」にはそういうことを考えることができるが、どうしても肉体のなかに「緊張感(身構え)」が残ってしまう。

 


*********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年8、9月合併号を発売中です。
200ページ、1750円(税、送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

<a href="https://www.seichoku.com/item/DS2002171">https://www.seichoku.com/item/DS2002171</a>


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Estoy loco por espana(番外篇110)Joaquín Llorens

2021-10-20 09:11:20 | estoy loco por espana

Obra Joaquín Lloréns Técnica. Hierro 60x21x17 C. P

Imagino uns delfines desde la línea aerodinámica,.

La madre les enseña a los niños a saltar.

 

Esa imaginación conduce a la siguiente imaginación.

 

Si Iron es la madre, Joaquín es el padre. Y el trabajo es el hijo.

De su trabajo, siempre siento el amor que se esparce.

 

流線形からイルカを思い浮かべる。

母親が子どもにジャンプを教えている。

 

その連想は、また次の連想を呼ぶ。

 

鉄が母親ならば、ホアキンは父親。そして作品は子ども。

彼の作品には、いつも広がっていく愛が感じられる。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする