詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(19)

2020-12-15 11:04:36 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(19)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十九 詩の完成者」は「源実朝」。

 高橋のことばの奥には「死」がある。私は、いつもその「死」の匂いにぞっとする。近づきたくない。近づかないために、書く、とさえ言える。ふつうは対象に近づくために書くのだが、「ことば」を間に置くことで、私は距離を保ちたいと思うのだ。

血がいのちのしるしなら この身はその瞬間のみに生きたのだ
そのとき わが死の一族の死は荘厳され 完成した

 死ぬ瞬間を生きる。これを「生きざま」という。「死にざま」ということばがいつごろからか流行しているが、私は、このことばが嫌いだ。嘘っぽい。
 「生きざま」だからこそ「完成した」と言える。
 そして、こういうことは、同時にことばは「伝統」なのである。そして、(私は、あえて、そしてをくりかえすのだが、)そしてそれは「伝統」だからこそ、「定型」である。つまり、この二行には一種の「聞き覚え」がある。
 「わが死の一族の死は荘厳され」とあえて「死」ということばを二度つかい、乱調を導入しているのは、「聞き覚え」を破るための手段だろう。
 ここまでなら、あえて「死の匂い」と、私は言わない。「生きざま」ということばとともに、くりかえし語られてきたことだから。
 私はその次の二行に、立ち止まり、引きつけられ、「動いてはいけない」と自分に言い聞かせるのである。

そのことの栄誉を受けるべきは 殺されたこの身と共に
この身を殺してその身も殺された 一族最後の死者なる若者

 「最後の死者」。それはけっして死しない「死者」なのである。多くの死者は「この身を殺してその身も殺された」という悲劇(ドラマ)となる。つねに動きがある。動く輝きがある。その「悲劇」そのものと同じように「最後の死者」を見ることはできない。「最後の死者」は、もう殺されないのだ。ただ、「死者」として絶対的に存在してしまうのだ。「ドラマ」は激動であり、条件次第でどうとでも展開する。しかし「最後の死者」には、その後の展開がない。「絶対的存在」として、ドラマを超越して存在し、輝いてしまうのだ。「最後の」の何と言う強い閃光。
 高橋には、きっとことばによって選ばれたもの、「ことばの最後の死者」という自負があるに違いない。
 「それには触れてはいけない」私のなかの、何かわからないものが、いつも大声を出して、私を踏みとどまらせる。






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