詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(124)

2019-04-22 08:09:34 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
124 セラペイオンの神官

イエス・キリスト様、わたしは常に
思いと言葉と行いにおいて
聖なる教会の戒律を守り
あなたが否むものすべてを退けてきました。
しかし今、わたしは父の死を悼み、父の死を悲しみます。
父が(申し上げるのも恐ろしいことながら)
呪われたセラペイオンの神官であったとしても。

 私には「宗教感覚」がないのかもしれない。こういう、どちらの神を大切にするかというような問題は、どうもなじめない。どちらも同じと思ってしまう。
 私が関心を持つのは、

(申し上げるのも恐ろしいことながら)

 このことばが、(括弧)のなかに入っていること。日本の書き方では、括弧内は「補足説明」のことばがはいることが多い。カヴァフィスの原文はどういう表記なのか。外国の文章では( )をつかうことがあるのかどうかも私は知らないが、なぜ池澤がこういう表記にしたのか、とても気になる。
 日本でのふつうの書き方を踏まえて言えば、しかし、ここは「補足」を装った「強調」のように感じられる。主人公の「わたし」は、言いたいのだ。「恐ろしいことながら」という気持ちよりも、父が「セラペイオンの神官であった」ということを。それは、つまり、「わたし」はキリスト教徒であり、キリスト教徒の「告白」の仕方を踏まえて語っているが、意識のどこかではキリストとは違う神を生きている、と。

 池澤は、

「われは思いと言葉と行いとをもつて、多くの罪を犯せしことを告白し奉る」はカトリックの「告白の祈り」の文言である。

 と教えてくれている。




カヴァフィス全詩
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