『旅人かへらず』のつづき。
一二二
十二月の初め
えのころ草も枯れ
黄金の夢は去り
夢の殻(から)のふるへる
この作品は、最後の行が不思議に美しい。「夢の殻」の「から」という音が美しい。「黄金の夢は去り/夢の殻はふるへる」という2行は、「夢」ということばが2回もつかわれていて、少しうっとうしい感じがするのではないけれど、不思議と「から」という音が美しい。2行目「えのころ草も枯れ」の「枯れ」と響きあうからだろうか。そうか、「殻」というのは「枯れた」存在なのか--と、意識が音楽のなかで、呼び合っている形象を感じ取るからだろうか。
一二三
山の椿は
年中花咲くこともなく
枝先の白い芽は葉の芽
はなよりも葉の美しき
黒ずめるみどり
かたく光るその葉
一枚まろめて吹く
その頬のふくらみ
その悲しげなる音の
山霊にこだまする
冬の山の静けさ
「黒ずめるみどり」からつづく行のリズムが気持ちがいい。特に「一枚まろめて吹く」からの3行のリズムと、音のつらなりが、私には気持ちがいい。「ふ」を中心とする「は行」と「その」がつくりだすリズムが、一気に加速していく。
文学論 (定本 西脇順三郎全集)西脇 順三郎筑摩書房このアイテムの詳細を見る |