坂多瑩子「ムスメハハ」ほか(「天国飲屋」3、2023年06月08日発行)
坂多瑩子「ムスメハハ」は、母と娘(娘と母)の愛憎を、こんなふうに書いている。
あたしは囲炉裏のそばで粥を食いながら
見てたさ娘が草苅り鎌を磨いているのを
紅葉のような手だった手に力が入るのを
母さんは生かしてはおれん はよう死ね
なんていわれたりして時代も変わっても
殺し合いっこだよムスメハハムスメハハ
ねえねえねえ母さんきょうってなんの日
かわいいムスメよお前の生まれた日だよ
最近のあたしったらひどく生ぬるくてね
いい子でいい母でいい婆さんやってるよ
しかし、まあ、「いい子/いい母/いい婆さん」は「生ぬるい」を自覚したりはしないだろう。ましてや「ひどく生ぬるくてね」という「自己批判」などはしないなあ。だいたい、この「自己批判」がほんとうに「自己批判」だったとしたら、それは「過激になる」ということだから。
こういう「矛盾」が「おばさん」の条件だと私は思う。この「矛盾」を「矛盾」と呼んでしまうのは、いわゆる「論理」というか、男が作り上げてきた「思想のよりどころ」のようなものだけれど、坂多にいわせれば「充実」とか「持続」とでも言うべきものかもしれない。
私は、ふと、何の脈絡もなく、いま「充実」を「持続」と書き換えて思ったのだけれど。
もしかしたら、これは、あのベルグソンの「持続」?
ちょっと、頭を、かすめる何かがあった。
はっきり覚えていないが、数学は物理に、物理は化学に、化学は生物学(いまなら「生理学」というかも)に引き継がれた(発展した)というようなことをベルグソンは言っていたと思う。「おばさん」というのは、その「生理学」としての「人間」である。「有機体」としての「人間」である。数学的純粋さなんて、古くさい、と笑い飛ばすだろう。
長嶋南子「四月」には、こんなことばがある。
四月がくるので引っ越します
身の丈にあわなくなった部屋を
男を捨てていきます
どこかに身の丈にあった
部屋はありませんか 男はいませんか
「いません」という返事は、まあ、通用しない。数学の問題ではないのだから。それに、長嶋にかかれば、あらゆる男は長嶋の「身の丈」におさまってしまう。それが「持続」ということ。
途中を省略して引用するので、わけがわからないかもしれないが、わけがわからなくてもいいのが詩なので、説明抜きで(論理抜きで)引用すると、詩は、こんなふうに展開していく。
男が来て箱を担いで出て行こうとしています
あれ 産廃業者に頼んで棄てた男ではないか
男の背中に爪をたてて箱から飛び出しました
ご近所をウロウロしている徘徊老人は
わたしではありません野良猫です
いいえわたしです
いいえ野良猫だってば
私は猫がこわいから見かけたら逃げます。で、その猫というのは、爪をたてる、うろうろする。野良猫。という「要約」にしてしまってはいけないのだが、ここにあるのも「いい加減な持続」だ。そして、この「いい加減」というのは、「論理を超越する」ということでもある。あるいは、「論理なんて、後出しジャンケンでどうにでもなるから、好き勝手に」であるかもしれない。
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