詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

齋藤健一「一日一日」、夏目美知子「テーブルの上の」

2023-06-10 21:58:00 | 詩(雑誌・同人誌)

齋藤健一「一日一日」、夏目美知子「テーブルの上の」(「乾河」97、2023年06月01日発行)

 齋藤健一「一日一日」を、私は「一月一日」と読んでしまった。そして感想を書こうとして「一日一日」だと気づいたのだが、タイトルが「一月一日」でもかまわないと思う。というよりも、「一月一日」の方が、私にはぴったりくる。
 こういう詩である。

飛行機は濡れる。空をひらく。夜中がおわりに重なる。
こがね虫の緑と金色へ滲むのである。鉛筆の2B。紙面
がこぼれる。始まる七月に。照らすだけの外光のさびし
く。握りこぶしの下をみる。おのずと顎をのせる。あり
たけ吸い込みふくらませるのだ。

 「こがね虫」「七月」とあるから、「一月一日」はないだろうと思うかもしれないが、一年の初めに、その年のある日を想像していると読むこともできるだろう。私の年齢のせいかもしれないが、もう「年月」は関係がない。いま、生きている、その「一日一日」しかない。だから「一月一日」も「一日一日」のひとつにすぎない。そして「一日」なのに「一年」が見えるのだ。「ありたけ吸い込みふくらませるのだ。」に齋藤がどういう思いをこめたのかわからないが、私は「深呼吸」と読んだ。毎日、かわらず、深呼吸をする。そこから「一日」が「一日」として始まる。この「始まる」感じが、「一月一日」と重なる。その深く吸い込んだ空気を吐き出してみたら「七月」だったという時間の過ぎ方があってもいいと思う。
 私はもう絵を描かないが、文字を書くときは鉛筆の2Bをつかう。体力的に、それしか受け付けない。そんな「おわり」方も「重ね」で読んでしまう。

 夏目美知子「テーブルの上の」にも「一日一日」が登場する。

活動の大方を諦めると、衣食住だけの小さな生活になる。
それでも一日一日は確実に過ぎて行き、小さな生活は、
夜半、揺り椅子に座る私の心臓の、静かな鼓動となる。

 齋藤の描いていたのも「小さな生活」である。そして、それは「確実」なものである。「諦める」ことによって「確実」になる。
 詩の最後の部分に、ポトフを盛る器の描写がある。

器のぐるりに小花の模様。

 なんでもないような描写だが、「小さな生活」の「小」という文字が隠れていて、それがことばを美しくしている。「ぐるり」に夏目の視点がある。「大方を諦め」ても、しっかりと生き残っている何かがある。自分を見つめ、同時に周囲(ぐるり)もしっかり見つめる。
 それは、やってきたこがね虫を2Bの鉛筆で描いている齋藤の生き方にも通じる。

 私の感想は「一日一日」を「一月一日」と誤読することからわかるように、作者の意図を無視したものだろうけれど、誤読することでしか出会えない何かもあり、誤読には誤読の必然があると思うので、誤読と気づいたけれど、それを「修正」せずに書いておく。

 

 

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